「動画共有サイトの存在そのものがまずいとは思っていない。ただ,違法で投稿される動画を見ることが普及してしまうと,制作者側への配分が減り,コンテンツが作られなくなってしまう」

 インターネット国内最大手のヤフーの井上雅博社長は,米Google社傘下の動画共有サイト「YouTube」やドワンゴの「ニコニコ動画」などの利用者が広がっていることへの危機感をあらわにした。USENの100%子会社で動画配信サービス「GyaO」を手がけるGyaO(東京・港)への出資を明らかにした会見の席でのことだ。

ヤフーがGyaOを子会社化
ヤフーの井上社長(左)とUSENの宇野社長(右)。有料課金モデルや無料の広告モデルなど「多様なビジネス・モデルで収益を上げる仕組みを作る」と井上社長は話した
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 ヤフーは7日,USENからGyaO株式の51%を2009年4月30日付で取得し,GyaOを子会社化すると発表した。取得額は5億2977万円。同年秋にヤフーの動画配信サービス「Yahoo!動画」とUSENの「GyaO」を統合し,動画配信サービスの規模拡大を狙う。Yahoo!動画の月間利用者数は約1100万人,GyaOは同じく約650万人。2つのサービスを合わせた単純計算では月間1750万人が利用する国内最大級の動画配信サービスが生まれる。

動画共有サイトに矛先向かう

 提携の背景にあるのは,動画共有サイトの台頭だ。例えば,YouTubeの国内利用者数は月間2000万人近い。それに対抗できる利用者数をそろえ,配信インフラの統合によるシステム運用コストの削減や,コンテンツ調達コストの共通化などを軸に動画配信サービスの収益を高めたい考えだ。

 そもそもヤフーもUSENも動画配信事業では苦戦を強いられている。USENのGyaO事業は2200万人の登録会員を抱えながら赤字続き。ヤフーも「動画サービスでもうけているとは言えない」(井上社長)というのが現状だ。両社ともに収益化が課題になっている。

 USENの宇野康秀社長は「広告メディアとしての完成度が十分でなかったことに加え,正規契約によるコンテンツ調達でコストがかかる中,違法にコンテンツを載せているサイトが出てきた」と,収益化が難しい現状を吐露した。ここでも矛先は動画共有サイトに向いた。

 「よりきれいな画質でオンタイムで動画コンテンツが見られるようになれば,利用者が違法な動画を見る必要もなくなるはず」と,井上社長は統合による規模の拡大をてこに正規コンテンツを充実させることが動画共有サイトへの対抗策との考えを示した。

ヤフーのテレビ向け新サービスでも
今回の提携で開発を進める動画配信インフラは,ヤフーが6日に始めたテレビ向けネット・サービスでも利用する
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 GyaOとヤフーの動画配信サービスは,しばらくは並存する見込みだが,ブランドや利用者IDの統合なども含めて今後検討を進める。配信動画を有料で提供するかどうかは,コンテンツ提供企業が選べるようにし,有料と無料のどちらでも対応できるように配信システムを構築する計画だ。このほか,動画配信インフラを他社の運営サイトに提供し,利用者拡大につなげる取り組みも始める。

ネット対応テレビの戦略にも影響

 「権利者に対価をきちんと支払う環境を作らなければ,動画配信市場が長続きしない。ナンバーワンのサービスを作る」と井上社長は決意を表明した。ヤフーとUSENが共同で構築する動画配信システムは,6日に始めたヤフーのテレビ向けネット・サービスでも利用する(関連記事はこちら)。

 一方で両社が対抗心をつのらせる動画共有サービスも同じように収益化に苦戦している現状がある。果たして,国内トップクラスの利用者を抱える動画配信サービスの統合は,動画共有サイトを超えるプラスアルファを利用者に提供し,収益化に寄与できるか。両社の取り組みは,テレビのネット対応で新市場を創出しようともくろむ国内家電メーカーにも大きな影響を与えることになりそうだ。