2種類の色素を塗り分けた例。外側の電極を一部剥がすことで色素が見えている。
2種類の色素を塗り分けた例。外側の電極を一部剥がすことで色素が見えている。
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 九州工業大学 大学院 生命工学研究科 教授の早瀬修二氏の研究グループは,「ファイバー型TCO-less 色素増感太陽電池」を作製し,「第56回応用物理学関係連合講演会」(3月30日~4月2日,筑波大学)などで発表した。

 この太陽電池は,直径9mm,長さ約3.5cmのガラス棒の周囲に,同心円上に色素増感型太陽電池の各層を形成したもの。具体的には,ガラス棒の上に,酸化チタン(TiO2)と増感用色素の層,電極(アノード)となる多孔質のTiの層,ヨウ素溶液などの電解液を含む多孔質の層,電極(カソード)となるPTとTiの層,という順序で各層を形成する。完成したものは,ガラス棒の両端以外はTiで覆われている格好になる。

 光はこのガラス棒の端から入力し,もう一方の端から出るまでにガラスの内壁に全反射しない角度で当たると,太陽電池の色素に吸収されて電力に変換される。

 現時点の変換効率は,「1種類の色素を使う場合で1%ちょっと」(九工大の早瀬氏)。値が低いようだが,作製した素子は直径9mmと太く,長さも太陽電池として働く部分は1.5cmほどしかない。この結果,ガラスの端から入力した光の9割ほどはそのままもう一方の端から抜けてしまっている。この点を考慮した,太陽電池自体の正味の変換効率は10%前後になるもようだ。光を無駄にする問題は,ファイバを長くする,あるいはファイバを細くするなどの対処で解決できるという。

近赤外線を使いたい

 この太陽電池と,一般的な色素増感型太陽電池との最大の違いは,その形状よりも,TCO(透明電極)を使わないという点にある。九工大の狙いは,「これまで色素増感型太陽電池で利用されていなかった近赤外線のエネルギーを発電に使うこと」(同大学の早瀬氏)。ところが,透明電極はITOやFTOのいずれでも,可視光に対しては高い透過率を持つが,近赤外線に対しては透過率が下がる。今回の太陽電池は,TCOを使わない太陽電池を模索する中で考え付いたという。
 
 九工大は既に,異なる波長帯に吸収のピークを持つ2種類の色素を塗り分けることで,いわゆる「タンデム型」などのファイバー状太陽電池を試作済み。近赤外線など,各波長帯ごとに吸収率が高い色素を見つけられれば,それらをファイバの異なる場所に使うことで,「接合の数を無限に増やせる」(九工大の早瀬氏)とする。