図1 今回開発したO<sub>3</sub>発生電極(下)。上のビーカーは,この電極を使って水を電気分解し,インディゴで染色した水を脱色した実演の様子。
図1 今回開発したO<sub>3</sub>発生電極(下)。上のビーカーは,この電極を使って水を電気分解し,インディゴで染色した水を脱色した実演の様子。
[画像のクリックで拡大表示]
図2 今回の電極を使った水の電気分解O&lt;sub&gt;3&lt;/sub&gt;が発生する仕組み。実際にはOHラジカルも発生しているという。OHラジカルは酢酸やアセトアルデヒドを酸化分解する能力を持つ。
図2 今回の電極を使った水の電気分解O<sub>3</sub>が発生する仕組み。実際にはOHラジカルも発生しているという。OHラジカルは酢酸やアセトアルデヒドを酸化分解する能力を持つ。
[画像のクリックで拡大表示]
図3 従来,洗濯機や空気清浄機に使っていた,電機分解による次亜塩素酸発生の仕組み。
図3 従来,洗濯機や空気清浄機に使っていた,電機分解による次亜塩素酸発生の仕組み。
[画像のクリックで拡大表示]
図4 電極の断面写真。中間層のPtは基板のTiの酸化を防いでいる。
図4 電極の断面写真。中間層のPtは基板のTiの酸化を防いでいる。
[画像のクリックで拡大表示]

 三洋電機は,O3(オゾン)が溶解した水(O3水)を作る用途に向け,水の電気分解に用いるO3発生電極を開発した(ニュース・リリース)。触媒となる酸化タンタルとPtの混合物の薄膜をTi基板に形成したもので,低濃度のO3水を低消費電力で生成できる。同社では,今回の電極を使ったO3水発生装置を,冷蔵・冷凍ショーケースなどのコールドチェーン機器,空調,空気清浄機,オゾン発生装置などの用途に応用できるとみる。実用化時期は未定。現在は社内の事業部などに採用を働きかけている段階である。

 O3水を生成する際には一般に,水の電気分解を利用する。気体のO3は水に溶けにくいが,電気分解でO3を生成すると水に溶けやすい細かな泡として発生させられるためである。実用化されているO3生成装置で,発生電極として通常使われるのはPtである。だが,Pt電極は低電流でのO3発生効率が悪く,消費電力が大きくなるため民生機器などへの採用に難があった。

 三洋電機は今回,低電流でのO3発生効率で酸化タンタルが優れた特性を持つことを発見し,電極材料に採用した。開発した電極は,効率を高めるためにPtを混合して作製するが,成分は酸化タンタルが90%以上を占める。酸化タンタルは絶縁体であるため,従来は電極材料には向かないとされていた。今回の電極では,酸化タンタルを薄膜にして電気が流れるようにした。同社では,O3発生電位を印加すると,薄膜部分にトンネル電流やホッピング電流が流れ,O3を生成できるのではないかとみている。流れる電流が小さいので,消費電力が小さく,同じ濃度のO3水を得るために必要な電力はPt電極の約1/4とする。得られるO3水の濃度は常温では最大0.5mg/Lである。半導体製造工程で用いるO3水などに比べると低濃度だが,一般の浄化・除菌能力としては十分な濃度という。

 三洋電機はこれまで洗濯機や加湿器といった白物家電,業務用空気清浄機などで,水の浄化や除菌のために,水の電気分解によって得られる次亜塩素酸を活用してきた。次亜塩素酸は分解できる成分がH2S(硫化水素)やNH3(アンモニア)などに限られていた。今回のO3発生電極を使用すれば, O3とH2O2が発生し,さらにその両者が反応してより酸化能力の高いOHラジカルが生じる。その結果,酢酸やアセトアルデヒドといったものまで分解できるようになるという。

 また,従来の方式で次亜塩素酸を発生させるには, Cl-(塩化物イオン)を含んだ水を使う必要があった。原水にCl-を含む日本では使えるが,海水を淡水化した水を使う地域では使えないなど,搭載製品を利用できる地域に制限があった。今回のようにO3を発生させる場合,Cl-は不要なので,さまざまな水道水に対応できるとする。三洋電機では,「海外の水道水でも使える技術」と今後の応用展開に期待している。