図◎局所加熱機構の電子顕微鏡写真
図◎局所加熱機構の電子顕微鏡写真
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 日立製作所は,直径約3μm,質量15pg程度の微量な有機物の測定を可能にする質量分析手法を開発した。同手法では,測定対象の試料だけを加熱する新たな局所加熱機構を利用し,気化した成分を質量分析することでノイズの少ない高感度な測定を実現する(図)。これまで測定困難だった微量な有機物を個別に質量分析し構造を特定できることから,大気中の浮遊物質の計測やデバイス製造プロセスでの異物検査などに応用可能だ。

 有機物を加熱して気化させる質量分析法自体は既にあるが,試料が微量だと,試料ホルダに付着した他の成分が気化しノイズとなるため,正確な分析が難しかった。そこで,同社は局所加熱機構を採用し,測定時に発生するノイズを抑制した。

 具体的には,極細のPt(白金)線の周囲をAg(銀)で覆った二層構造のWollastonワイヤを使う。試料を置く部分のAgを除去し,Ptを露出。そこを局所加熱し試料だけを気化させることで,ノイズの少ない分析を実現した。Pt製加熱部の熱容量は非常に小さく,0.1秒以内に1000℃以上という高速加熱を可能としたため,難揮発性有機物や高分子有機物でも安定して扱える。

 最近では,大気中に浮遊する粒子状の物質(SPM:Suspended Particulate Matter)が環境に与える影響の調査や,デバイスの製造プロセスの歩留まりに関連す異物の発生原因の解明など,微量な物質の構造分析に対するニーズが高まっている。ただ,微量な物質が金属や酸化物といった無機物ではなく有機物の場合には,炭素が含まれているという情報が得られるだけで,構造までは特定できなかった。

 同手法は,2009年3月27日から日本大学理工学部船橋キャンパスで開催される「日本化学会第89春季年会(2009)」で発表される。