東北大学 未来科学技術共同センター教授 大見忠弘氏
東北大学 未来科学技術共同センター教授 大見忠弘氏
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住友大阪セメント 執行役員 光電子事業部長 兼 新規技術研究所長 向井氏
住友大阪セメント 執行役員 光電子事業部長 兼 新規技術研究所長 向井氏
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扁平形状の粒子(左)と球状粒子(右)
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開発した磁性誘電体の構造模式図
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磁性誘電体を用いた小型アンテナ試作品の性能比較
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 住友大阪セメントと東北大学 未来科学技術共同センター教授 大見忠弘氏は,UHFの帯域全域に対応するアンテナを小型できる磁性誘電体材料を共同開発した(PDFの発表資料)。アンテナの小型化のほか,通信方向に指向性を持たせることで,携帯電話機の省電力化が図れるとする。小型化と高感度の両立が困難だったワンセグ放送向けのアンテナを従来の1/3~1/5の5cmにして,筐体に内蔵できるという。

住友大阪セメントらは,今後,情報通信技術が発達するにつれ,「高精細な動画を双方向に無線通信する」,「1週間充電なしで動く」ような携帯端末の需要が高まるとみている。こうした端末の実現には,アンテナが広い帯域幅に対応することや,アンテナの小型化,省電力化が不可欠とする。今回開発した材料は,それらの課題を「解決できる」(住友大阪セメント)という。

 アンテナの長さは,通信電波の波長に比例する。電波の波長を短縮化するために用いられる,磁性体や誘電体材料は,透磁化や誘電率が高いほど効果的である。一般的に,AM放送などの低周波数帯域では,磁性体であるフェライトが,無線LANなどの高周波帯域では誘電体セラミックが用いられる。

 フェライトは,アンテナを小型化できる効果は大きい。しかし,電波エネルギーを吸収して熱エネルギーに変換するため,通信電波の周波数が高くなるほど,受信感度が低下する。一方,誘電体セラミック(非磁性)は,波長短縮の効果が小さい。このため,短波長(高周波)以外の電波に対して,アンテナの小型化は望めない。例えば,透磁率が1,誘電率が10の誘電体セラミックスを利用した場合,アンテナを小型化できる割合は通信波長の1/3程度という。500MHz帯(波長60cm)の地上デジタル放送では,長さ20cmのアンテナが必要である。このため,地上デジタル放送帯域を含む100M~1GHz周波数帯のデータ通信には外付けアンテナが必要であった。

 そこで,この周波数帯の波長を短縮するために,住友大阪セメントらは透磁率が高く,誘電体の性質を併せ持った複合体材料に注目した。材料には,一般にパーマロイと呼ばれる,透磁率の大きいFe-Niの合金を用いたという。

 今回,複合体材料の透磁率を高めるため,(1)磁性体粒子のナノ粒子化,(2)磁性合金粒子の扁平形状化,(3)ナノ粒子の均一分散化,の3点を工夫した。そして,扁平形状の磁性合金ナノ粒子を樹脂中に均一分散した材料を開発したという。

 (1)(3)により,材料による電波吸収を抑制し,アンテナの感度を高めた。具体的にはバルク状態のパーマロイを,大量生産に向く液相合成を用いてナノ粒子化したという。(2)については,磁場印加中で,粒子を高い磁性を示す扁平形状に制御した。

 樹脂には,安価で大量生産に向く,エポキシ樹脂やウレタン樹脂を採用している。このほか,日本ゼオンが開発した低吸水性が特徴のプラスチックであるシクロオレフィンポリマー樹脂の採用を検討しているという。

 事業化については,アナログ波の停止が予定されている2011年に向け,1~2年以内を視野に入れる。既にアンテナ・メーカーに向けて評価用にサンプルを提供しているという。

 東北大の大見氏は,今回の成果をMaxell理論を発表したJames Maxwellが「泣いて喜ぶ」ほど価値があると述べた。また関連特許については,「ガチガチに押さえている」とし,国内外を含め20件近く出願しているという。

 なお住友大阪セメントらは,今回発表した成果を2009年2月18~20日に東京ビックサイトで開催される「nanotech 2009」に出展する。