Foresight InstituteのChristine Peterson氏
Foresight InstituteのChristine Peterson氏
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 米Foresight Institute(同団体のWebサイト)は主にナノテク技術を社会的に益になる技術として推進することを目的としたシンクタンクである。同団体のPresidentであるChristine Peterson氏は2008年夏ごろから,センサ・ネットワークの関連技術を,オープンソースとして公開するプロジェクト「Open Source Physical Security Project」(同プロジェクトのWebサイト)の設立を業界に提案した。同プロジェクトが主眼とするのは,オープンソースでセンサ・ネットワーク向けハードウェアやソフトウエアの規格を開発することで,センサ・ネットワークが社会的な認知を得る点にある。Peterson氏にプロジェクトの背景を聞いた。

――なぜForesight Instituteはセンサ・ネットワークの普及を志すのか。

Peterson氏 我々は,ナノテク技術の進化に向けた活動を憲章にうたっている。センサ技術は,ナノテク技術が活躍できる分野として,以前から可能性を見せてきた。センサ技術の進化や低価格化によって,いわゆるユビキタスを実現する可能性が見えている。センサ・ネットワークの普及は,環境への影響の検査などの環境分野,病気を早めに検査する医療分野,バイオ兵器や核兵器を検査するセキュリティ分野などで,社会的に有用な役割を果たす可能性が十分にある。

――それで,センサ・ネットワーク技術をオープンソースさせる提案の理由は何か。

Peterson氏 セキュリティなどにセンサ技術を応用する分野で,私はこれまでに何度か米政府と絡んだことがある。米国では,人々が下水に薬物を投げ込んだために,自然の魚などに悪い影響を与えることがある。この問題の研究のため,下水に投げ込まれた薬の検査ができるセンサ・ネットワーク技術があります。またこの技術を発展させて,薬物だけでなく麻薬なども検査できるようにした。このセンサ・ネットワークを実際に下水内に設立する計画途上で,ある街の市長がこのプロジェクトを停止させた。こうしたセンサが特定の家の前に設置される可能性を考慮した。こうした技術が市民のプライバシーに侵害する可能性が明るみに出ることで,市民から反発が起こる可能性を恐れたのだ。

 センサ・ネットワークの技術開発は閉じており,センサがどんな情報を集めて,その情報をどのように扱っているかは,開発者以外に誰でも分からない。こうした状態が続けば,人々がセンサ・ネットワークを信用しないのも当たり前だと思った。

例えば,オープンソースのセンサ・ネットワーク技術が存在したら,イラク戦争は回避できたかもしれない。イラク政府に大量破壊兵器を検査するセンサ・ネットワークの設置を提案できただろう。オープンソース技術を利用したセンサ・ネットワークなら,イラク政府は,自ら検査して現物を自分で確認ができるから,そのセンサ・ネットワークの設置に納得したかもしれない。これは政府の問題に止まらないと思う。ネットワーク化された家電機器は,様々なセンサを搭載する方向が見えている。消費者の信用を支えるためにもこの分野でも考えるべきだと思います。

――こうしたプロジェクトを今後,どのように具体的に実現するか。

Peterson氏 オープンソースのセンサ・ネットワーク技術を開発する以外には,センサ・ネットワークが集めたデータの扱いに関する規則の制定も考えている。ただし,今のところこれは提案の域を出ない。実現のため,まずこうした技術や規則の開発で重要な役割を果たしている人たちを集めて,基礎を定める会議を2009年中に行う予定だ。その後にもっと公開された会議を開催すると思う。興味がある方がいるならWebサイトにアクセスしてください。