「“現場の言葉”を生かせば企業は自ずと成長する」,ブリヂストンの世界の工場で利用した生産管理手法を解説
「“現場の言葉”を社内で共有する仕組みを経営者が作れば,柔軟でスピーディな現場改善や経営戦略の遂行が可能になる」。ブリヂストンの顧問で同社取締役常務執行役員(生産技術管掌)だった奥 雅春氏は,このように主張する。同氏は,世界の同社タイヤ工場の立ち上げや製造のための生産管理手法を確立,実際に適用してきた。この手法は業務フローと,業務遂行のための情報フローという二つのフローに着目することから,奥氏はFOA(flow oriented approach)と呼んでいる。
柔軟でスピーディな経営戦略の遂行という目標は,企業活動の管理/改善の仕組みを作るときによく言われることである。奥氏は「類似した考え方はいろいろあるだろう。FOAの特徴は,ものづくりの担当者や組長,工程リーダー,保全の担当者などが現場で使っている生の言葉を情報ネットワークに乗せることだ。この“現場の言葉”は,現場の活動を特徴的に表現し,みんなで共有できるものが多い。そこで使う数字も,直報や日報にまとめて記載するような平均化した数字ではなく,生産している現場の製品やロットの状態を1個ずつデータとして表す」と述べる。
つまりFOAでは,現場の活動を表現する言葉を的確に選択/登録し,活動をありのままに定量化できるようにする。例えば,生産性や品質,納期などに関係する現場の言葉と定量化の定義などを,「現場の言葉の辞書」に登録しておく。現場は,その言葉に関するデータを生産の過程で次々とネットワーク上に流す。ただし,データ入力作業をしていることをいちいち意識させないように,自然な形で入力できるようにする。
経営者や工場長,組長,営業担当者,計画担当者など使いたい人が使いたいときに,データをネットワークから吸い上げて加工し,判断の材料にする。例えば奥氏は,海外工場の立ち上げなどに必要な生産性や品質の基準を作っておき,毎日その基準をクリアしているかどうかを見て,必要であれば即日,改善の指示を出すというように利用した。
「生産を改善するためのシステムを作ろうとしても,通常のシステム開発手法では要求仕様が固まらないとシステムの設計作業に入れない。これでは,改善活動のなかで必要になるテンポラリーなデータ処理プログラムを,さっと作ることができない。必要なデータ処理プログラムは,2次元の相関や中心値/分散の計算などExcelのような市販ソフトで組める場合が多い。それなのにタイムリーなシステム開発ができず,せっかくの現場の改善活動が停止してしまうという状況になる。このようなことを避けられる,新しい現場支援の仕組みとして,FOAを考えた」(奥氏)という。
ただし,このような仕組みを作ろうとすると,使い勝手のよい「現場の言葉の辞書」が欠かせない。そのためには,業務全体を俯瞰し,各業務の本質的で普遍的/安定的な構造を見抜く力が必要だ。「現場の言葉の辞書作成は簡単なことではないと思われるが,コツをつかめば楽」(奥氏)という。
「あるケースでは,現場の言葉の辞書を作るときに現場のエキスパート10人を集めた。10人とも自分のやり方を持っており,一見バラバラなことを言った。10人のやり方のエッセンスを抜き出し,それを作業標準として固めた。その作業標準を現場で定着させる標準化型改善と作業標準を改善する目標型改善のやり方も作った」(奥氏)。業務に精通し深く理解している担当者を集め,全体を俯瞰できる責任者が陣頭指揮を執ってまとめれば,必ず使い勝手のよい「現場の言葉の辞書」はできるという。
「上意下達ではなく,現場が自律して改善活動をしている企業は日本に多い。経営者は各現場を大事にし,現場が動きやすく力を合わせられる全社最適の仕組みを作れば,企業競争力を高められる。日本の企業に合った業務改革の方法論としてFOAを提案している」と奥氏は語る。
同氏は,特定非営利法人(NPO)の技術データ管理支援協会(MASP:Manufacturing Architecture for Series Products) が2009年1月29日に開催する定例研究会「日本の製造業の底力=現場からの生データを経営に活かす」で,FOAについて講演する。MASPは,生産管理のあり方や手法を研究している団体(関連記事)。部品表や工程の改革,スケジューリングなどを研究している。












