図 半導体ナノ粒子(AgIn)<SUB>x</SUB>Zn<SUB>(1-2x)</SUB>S(銀・インジウム・亜鉛・イオウ)が分散する溶液に紫外線光(波長350nm)を照射すると,緑色から赤色までの多彩な蛍光を発光(図は桑畑進教授提供)
図 半導体ナノ粒子(AgIn)<SUB>x</SUB>Zn<SUB>(1-2x)</SUB>S(銀・インジウム・亜鉛・イオウ)が分散する溶液に紫外線光(波長350nm)を照射すると,緑色から赤色までの多彩な蛍光を発光(図は桑畑進教授提供)
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 大阪大学大学院工学研究科の桑畑進教授,名古屋大学大学院工学研究科の鳥本司教授,IDECの共同研究グループは,(AgIn)xZn(1-2x)S(銀・インジウム・亜鉛・イオウ)という新規組成の半導体ナノ粒子の粒子直径を光エッチング法によって制御し,多彩な蛍光色を発光させることに成功した。粒子直径が異なるAgInZnS半導体ナノ粒子(粒径は2~3nm)が分散している溶液に波長350nmの紫外線光を照射すると,緑色から赤色までの多彩な蛍光を発光する(図)。

 同研究グループは,酸素を含む弱酸性溶液中に光触媒反応性を持つ半導体ナノ粒子を分散させ,これに紫外線光を照射すると光触媒反応によって,そのナノ粒子表面で酸化反応が起こり,自分自身を酸化させて溶液中に酸化物のイオンとして溶解し,直径が小さくなる光エッチング法を利用する研究開発を続けてきた。この研究成果の一つとして,CdTe(カドミウム・テルル)半導体ナノ粒子に,紫外線光を照射するとナノ粒子の直径を精密に制御できることを見出した。波長350nm近くの紫外線光の波長をnmオーダーで少しずつ変えると,その波長に相当する半導体の禁制帯幅(価電子帯と伝導帯のバンドギャップ幅)に応じて,ナノ粒子の直径が決まる「サイズ選択性光エッチング法」を考案した。

 波長350nm近くの紫外線光の波長を例えば2nmずつ変化させると,直径が大きいナノ粒子が酸化されて溶解し,直径が少しずつ小さくなる。そして,禁制帯幅に相当する直径で溶解が止まるため,特定の直径のナノ粒子を作り出せる。波長を2nmずつ変化させた場合は,「直径が約0.02nmずつ異なっている」と,桑畑教授は言う。直径がごくわずかずつ異なるCdTeナノ粒子に紫外線光を照射すると,緑色から赤色まで12段階で蛍光を発光させることができた。例えば,緑色は6段階に異なる緑色で蛍光を発光した。

 「サイズ選択性光エッチング法」を実現したCdTe半導体では,構成元素であるCdが,欧州が2006年7月から施行した特定有害物質の含有を禁止するRoHS法の対象物質になっている。このため,桑畑教授の研究グループはCdを含まない半導体ナノ粒子を探し,AgInZnS半導体ナノ粒子を蛍光発光させることに成功した。AgInZnS半導体は,CdTe以外で,量子効率(フォトン1個に対する生成物の比率)が0.4以上と高いのが利点である。

 今回開発したAgInZnS半導体ナノ粒子では,(AgIn)xZn(1-2x)Sの組成を決めるxを少しずつ変えると蛍光発光する色が多彩に変化させることができる。波長350nmの紫外線光を照射すると,x=0.2では緑色,x=0.35では黄色,x=0.4ではオレンジ色,x=0.5では赤色と飛び飛びに変化する。今回の研究成果としては,ナノ粒子の直径を精密に制御する半導体ナノ粒子の合成法を確立した点に新規性があるという。

 直径が異なる半導体ナノ粒子を透明樹脂に練り込んだものに紫外線光を照射すると,緑色や黄色,赤色などに蛍光を発することを確かめている。例えば,代表的な透明樹脂であるポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂シートに埋め込んだものの発光を確認している。将来,発光デバイスなどの応用製品を開発する方針で,研究を進めているという。共同研究の相手企業のIDECは「模造品防止用のシートなど,多彩な用途を考えている」と説明する。

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