非導電性の炭素材料でメモリを構成。(a)がメモリ・セルの断面図。(b)がメモリ全体の写真。(c)は,電極パッドの例
非導電性の炭素材料でメモリを構成。(a)がメモリ・セルの断面図。(b)がメモリ全体の写真。(c)は,電極パッドの例
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 ドイツQimonda AGは,IEDM 2008で炭素から成る素子に電流を流して状態を切り替えることで,メモリとして利用する技術の詳細について発表した(IEDMのプレビュー記事)。それによれば,ダイヤモンドなど非導電性の炭素材料をベースに素子を作製するのが最も有望だと分かったという。

 同技術は,カーボン・ナノチューブ(CNT)やダイヤモンドなどの炭素の素子に電流をパルス状に流して状態を切り替えることで,電気抵抗を大きく変化させ,不揮発性メモリとして利用することを目指したもの。こうした炭素の素子がパルス状のレーザの照射で状態を変えることは最近の研究で知られていた。今回はそれが電流パルスでも機能することを確認した。

 具体的には,非導電性であるダイヤモンドの微細な粒子から成る層を8nm~60nmの厚さに形成し,それをタングステンの電極で挟む。上端の電極は炭素材料すべてをカバーする広さ,下端の電極は個々のメモリ・セルの大きさに対応させ,1個がおよそ150nm角~350nm角になるようにする。

 ここにパルス状の電流を流すと,下端の電極の大きさが350nm角の場合,電圧が1.5V前後,電流の値が20μA~50μAの間のある大きさになった時に,電気抵抗が急に小さくなる。これは,非導電性炭素材料の一部が導電性に変わり,その「橋」が稲妻のように電極間にかかったことによる。電気抵抗が小さくなる電流値は下端の電極の大きさによって変わり,下端の電極を直径150nmの大きさに変更すると,電流5μA,1.5Vのパルスでも状態を切り替えられるとする。

 状態の切り替えにかかる時間は数ns~数10nsと短い。ただし,5.5Vの電圧パルスを印加し始めてからの応答時間は175ns程度かかる。「この応答時間は,電極のキャパシタンスでほとんど決まってしまう」(同論文)。炭素の状態を再び非導電性に戻すには,非導電性から導電性に切り替える際より大きな電圧を1ns程度の短い時間印加する。

 このメモリの読み出し操作に対する耐性は高く,温度75℃で2.3×1013回,0.1Vでの読み出し操作を繰り返しても,オンとオフの電気抵抗値に大きな変化は見られない。

 ただし,注意すべきこともある。非導電性から導電性に状態を切り替えるパルスの電圧を,例えば10Vという大きすぎる値にすると,導電性に変わる部分が酸化したり,気化して穴が開いたりして元に戻らなくなる。

 非導電性の炭素材料ではなく,CNTやグラフェンなど導電性の炭素材料をベースにメモリ・セルを構成した場合は多くの課題があるという。具体的には,状態の切り替えに少なくとも8V前後といった高い電圧を印加する必要がある。その際の電流もかなり大きく,直径数十nmのメモリ・セル1個の状態の切り替えに数十μAの電流が必要になる。メモリ・セルを敷き詰めた状態に換算すると数百MA/cm2~1GA/cm2という巨大な電流密度が必要になってしまう。

 さらに,最初の書き換え操作では良好な特性を示すが,2回目以降はオン時とオフ時の電気抵抗の差が急速に小さくなり,4回目で差がほとんど消えてしまうという課題もある。これは「電極のタングステンと炭素材料が反応して,タングステン・カーバイトが形成されることなどによる」(同論文)とする。

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