SRRの形状の例
SRRの形状の例
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シミュレーションによる電磁波の透過の様子。
シミュレーションによる電磁波の透過の様子。
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 米Boston Universityは,現在開催中の「IEDM 2008」で,周波数が1THz前後(波長が300μm前後)の電磁波(THz波)に対して機能する「透明マント」を試作中であると発表した。

 ここでいう透明マントは,反射や吸収が十分に小さく,しかも電磁波の進行方向を迂回させて,中心にあるものが外から見えないようにする円筒状の媒質を指す。この媒質は,媒質の実効的な誘電率と透磁率を所望の値に制御できるという特徴を備え「メタマテリアル」と呼ばれる。この透明マントの想定する用途はTHz波を利用した透視技術への対抗策。「THz波を使うと服を透視できため,武器を持っているかどうかなどが相手に分かってしまう。THz対応の透明マントがあれば,武器が見つかるのを防げる」(Boston大学 Department of Mechanical EngineeringのHu "Tiger" Tao氏)。THz技術にはやはりTHz技術で対抗可能というわけである。

 マイクロ波での透明マントは,米Duke Universityが2006年に初めて作製した(関連ブログ)。「SRR(split-ring resonator)」と呼ぶ,金属パターンの形状を少しずつ変えて所望の実効的な誘電率や透磁率の値を作り出して実現した。

 これをTHz対応にするには,原理的にはSRRのスケールを波長に合わせて大幅に小さくすればよい。ただし,マイクロ波帯向けでは数mm角の寸法だったSRRを,THz帯では数十μm角以下にする必要がある。小型化だけでなく,円筒状に丸めた形や円筒の半径方向にどう積層していくかが課題だった。

 Boston大学はこのために,Si基板の上に20μm厚のポリイミドの薄膜を形成し,その上に金(Au)とチタン(Ti)でSRRを形成するという手順を採用した。SRRを形成後,ポリイミドの膜を剥がして円筒状に曲げて利用する。この膜の上のSRRは約50μmピッチで配置した。SRRの大きさを少しずつ変えながら多数の膜を作り,同心円状に重ねれば,透明マントができることになる。

 ただし,Boston大学は現時点では各層の膜を作り,狙った誘電率や透磁率の値を得られることを確認しただけに留まっている。その先にはまだ手を付けられていない。コンピュータによるシミュレーションでは,50層の膜でほぼ透明マントの機能が実現できることが分かったという。

 現在,『日経エレクトロニクス』ではメタマテリアルの基礎に焦点を当てたチュートリアル記事「メタマテリアルとは何か」を連載中です。ぜひご覧下さい。

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