多品種を世界で同時展開

 携帯電話機の例が象徴するように,世界市場で戦い抜くエレクトロニクス・メーカーにとって不可欠なのは,さまざまな新製品を世界の消費者に同時に届ける開発・販売体制である(図7)。

図7 世界市場への展開で不可欠な要素 世界市場で生き残るためには,世界同時発売体制の実現や,各地域特有のニーズへの対応,さらに幅広い所得層向けのラインアップの拡充が必要になる。
図7 世界市場への展開で不可欠な要素 世界市場で生き残るためには,世界同時発売体制の実現や,各地域特有のニーズへの対応,さらに幅広い所得層向けのラインアップの拡充が必要になる。 (画像のクリックで拡大)

 これまで多くの日本のエレクトロニクス・メーカーは,日本市場と世界最大規模の米国市場を重視して新製品を投入する傾向にあった。例えばソニーでは,「同じ製品でも発売時期は日本と米国が先で,その2~3カ月後に欧州,1年遅れでアジア,南米という展開をしていた」(同社の金子氏)。新製品の開発費は,世界市場に段階的に展開していくことで,時間をかけて回収すればよかったわけだ。

 デジタル民生機器が主流となる今後は,こうした手法は通用しなくなる。自社が保有するノウハウをブラック・ボックス化しやすかったCRTテレビやVTR といったアナログ民生機器とは異なり,デジタル民生機器は単価が短期間で下がるからだ(図8)。開発費を一気に回収し,獲得した利益を次の製品開発に利用していく必要がある。

図8 デジタル民生機器のコスト競争は厳しい HDD内蔵DVDレコーダーの平均販売価格の推移を表した。2004年初頭の平均販売価格は約8万円だったが,2006年には約6万円にまで値下がりした。年率で約13%のペースで販売価格が下落したことになる。機器メーカー各社はHDDのデータ容量を増やしたり,地上デジタル放送向けチューナーを搭載したりすることで製品の付加価値を高めているが,平均単価は下げ止まらない。平均販売価格は「日経ベストPC+デジタル」の2004年4月号~2006年 4月号の記事を参考に,本誌が算出した。
図8 デジタル民生機器のコスト競争は厳しい HDD内蔵DVDレコーダーの平均販売価格の推移を表した。2004年初頭の平均販売価格は約8万円だったが,2006年には約6万円にまで値下がりした。年率で約13%のペースで販売価格が下落したことになる。機器メーカー各社はHDDのデータ容量を増やしたり,地上デジタル放送向けチューナーを搭載したりすることで製品の付加価値を高めているが,平均単価は下げ止まらない。平均販売価格は「日経ベストPC+デジタル」の2004年4月号~2006年 4月号の記事を参考に,本誌が算出した。 (画像のクリックで拡大)

 こうした迅速な開発サイクルを維持しなければ,後発メーカーにすぐ追い付かれてしまう(図9)。例えば,2000年に初めて登場したDVDレコーダーが本格的な普及期を迎えたのは2002年のこと。わずか4年前である。当時は松下電器産業と東芝,パイオニア,シャープの4社がDVDレコーダーを販売するだけだった。

図9 厳しい後発メーカーの追い上げ 世界市場における機器メーカー各社のDVDレコーダの出荷台数をプロットした。当初は松下電器産業と東芝,パイオニアの3社が先行していたものの,2003年第3四半期にはソニーが参入し,一気にパイオニアに並んだ。さらにその1年後には船井電機やLG Electronics社などが,ソニーやパイオニアと同程度の台数を出荷した。先行メーカーが市場を独占できる期間は短い。
図9 厳しい後発メーカーの追い上げ 世界市場における機器メーカー各社のDVDレコーダの出荷台数をプロットした。当初は松下電器産業と東芝,パイオニアの3社が先行していたものの,2003年第3四半期にはソニーが参入し,一気にパイオニアに並んだ。さらにその1年後には船井電機やLG Electronics社などが,ソニーやパイオニアと同程度の台数を出荷した。先行メーカーが市場を独占できる期間は短い。 (画像のクリックで拡大)