SH906iTVでは,圧電式のスピーカー2個を,筐体の対角上に配置する。スピーカーの数は増やさずに,縦置きでも横置きでも,スピーカーが左右となる構成を取っている。「うまい配置」(前述の技術者)と,評価の声があった。

第2部 薄型化 多機能と薄さを両立熱対策にも苦心
図1 メイン基板と電池を隣り合わせに配置する N906iμでは,メイン基板を小型化して2次電池を隣り合わせに配置した。基板と電池を重ねて配置する場合に比べて,筐体全体を薄くできる。
図1 メイン基板と電池を隣り合わせに配置する N906iμでは,メイン基板を小型化して2次電池を隣り合わせに配置した。基板と電池を重ねて配置する場合に比べて,筐体全体を薄くできる。 (画像のクリックで拡大)

 ここ数年,国内の携帯電話機では多機能化と薄型化の両立が,一つのトレンドになっている。FOMA 906iシリーズも,もちろん例外ではない。シリーズの中で今回最も薄いのは「FOMA N906iμ」である。厚さは12.9mmと,ほかの906iシリーズに比べて4mm以上薄い。前モデルのN905iμでは搭載していなかったワンセグ受信機能を備えつつ,N905iμと同じ厚さを維持した。そこで,N906iμを通じて薄型化への取り組みを紹介する。

 まず,薄型化に大きく貢献している とみられるのが,「キーボード側のメイ ン基板を小型化し,Liイオン2次電池 と並べて配置したこと」と,ある携帯電話機技術者は指摘する(図1)。基板と電池を重ねて配置する他モデルと異なり,メイン基板はキーボード側筐体の半分ほど。面積が狭いので,基板両面にLSIや受動部品などを実装している。

図2 基板に埋め込む N906iμでは,2次電池の電極と接続するバネ部品の一部を基板に埋め込んでいる。基板上に実装するよりも基板の厚さ分だけ高さを減らせるものの,製造工数が増えるため,コストアップにつながりやすい。
図2 基板に埋め込む N906iμでは,2次電池の電極と接続するバネ部品の一部を基板に埋め込んでいる。基板上に実装するよりも基板の厚さ分だけ高さを減らせるものの,製造工数が増えるため,コストアップにつながりやすい。 (画像のクリックで拡大)

 このほか実装面での薄型化の取り組みとして,部品の一部を基板に埋め込む方法がある(図2)。同じ高さの部品を使っても,基板の厚さ分だけ基板上に実装するよりも低くできる。ただし,製造工数が増えるので,コストアップにつながりやすい。

図3 コネクタを使わない N906iμは,薄型化のために徹底的にコネクタを排除している。コネクタの代わりにACFを使い,ディスプレイ・モジュールなどと接続する。コネクタが不要といった利点はあるものの,新たに圧着装置が必要になってしまう。
図3 コネクタを使わない N906iμは,薄型化のために徹底的にコネクタを排除している。コネクタの代わりにACFを使い,ディスプレイ・モジュールなどと接続する。コネクタが不要といった利点はあるものの,新たに圧着装置が必要になってしまう。 (画像のクリックで拡大)

 メイン・ディスプレイ側の基板では,モジュールの接続などに異方性導電性フィルム(ACF)を多用した(図3)。ACFによる接続は,コネクタを不要にでき,コネクタを用いる場合に比べて接続に必要な高さが低い。ただし,組み立て時に圧着装置が必要,基板の両側から加熱・加圧するために接続面とその裏側にも部品を実装できない,コネクタのように抜き差しできない,といった制約が生じる。

 N906iμは,906iシリーズで唯一,メイン・ディスプレイ側の基板とキーボード側のメイン基板をフレキシブル基板で接続している。ヒンジ部分を薄くするには,メイン・ディスプレイ側のメイン基板とキーパッド側のメイン基板をフレキシブル基板で接続するのが望ましいからだ。

 ただし,サイクロイド型のような,ワンセグ視聴時にメイン・ディスプレイ部分を回転させる機構を備えた携帯電話機では,フレキシブル基板が断裂する恐れがある。906iシリーズは今回,N906iμを除く7機種が,回転機構を備えており,接続に細線同軸ケーブルを採用している。

図4 ケーブル通過部が直径約2mmと細い P906iでは,細線同軸ケーブルの通過部の直径が約2mmと細いヒンジ部品を採用し,筐体の薄型化を狙った。部品メーカーによると,通常の品種より高価であるという。
図4 ケーブル通過部が直径約2mmと細い P906iでは,細線同軸ケーブルの通過部の直径が約2mmと細いヒンジ部品を採用し,筐体の薄型化を狙った。部品メーカーによると,通常の品種より高価であるという。 (画像のクリックで拡大)

 フレキシブル基板に比べると細線同軸ケーブルを採用した場合は筐体が厚くなりやすい。そこで「FOMA P906i」は細線同軸ケーブルと同時に,ケーブルの通過部の直径が約2mmと細いヒンジ部品を採用した(図4)。こうした細い品種は,携帯電話機で使われる一般的なものに比べて「価格が高い上,製造工数が増える」(ある部品メーカーの技術者)が,筐体の薄型化を優先したとみられる。P906iは,N906iμを除いた細線同軸ケーブルを使う全7機種のうちで最も薄い,厚さ17.4mmを実現している。

小型部品の採用や機能の集積化

 薄型化だけでなく,多機能化に伴い,高級機種の実装面積はますます余裕がなくなってきている。そのため906iシリーズでは,実装面積削減の取り組みが随所に見られた。小型部品の採用や,一つの部品に複数の機能を盛り込む工夫などである。906iシリーズに共通するのが,0603サイズの受動部品が多いことである。「海外向けの携帯電話機では,まだ1005サイズの受動部品が多い」(部品メーカーの技術者)という。0603品は1005品に比べ価格がまだ高いからである。