経済産業省は11月17日,日本のメーカーや大学,研究機関に眠る「発明の種」を社会的に有効活用するための仕組みづくりを目指し,その方向性について議論する「発明セッション」を実施した。パネリストは,知財,投資,経営,行政などの分野で活躍する「異能」たち。「短期的視点よりも長期的視点で,形式的議論よりも実質的な議論を」(コーディネーターを務めた東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻准教授の西成活裕氏)と始まった同セッションでは,「江戸学」から「フラクタル図形の活用法」「世界の産業構造の移り変わり」まで,さまざまな話題が持ち出された。

 テーマは,「50億人の世界市場でグローバル競争が展開される中,日本は日本の技術をどう活用していけばよいか」「ビジネスにつながる技術の目利きをどう増やすか」の二つ。車や人の渋滞のメカニズムを解き明かす「渋滞学」で知られる西成氏を中心に,素材メーカーの技術者や広告代理店のインキュベーション事業担当者,大手電機メーカーの研究所所長など10人が議論に参加した。

 セッションで出された問題意識の一つは,「日本は基礎研究では先端を走っているにもかかわらず,出口(事業化)のところでビジネスを他国に奪われている」というもの。「水不足の国で,水を消費者の元に運ぶのに日本の技術が使われているが,それでカネを設けているのは他国の企業。こうした事実を正視した上で国は戦略を練るべきだ」「日本人の良さの一つである『協調性』は,生産では生かされている。しかし,開発の分野でも技術者に『金太郎アメになること』を要求するから発明が生まれにくい」「企業は(収益の拡大など)短期的条件でしか行動できない。一方,(発明の事業化などを補助すべき)政府は予算獲得のことしか頭にない。まずはそこを正すべきだ」といった意見が出された。

 また,世界の産業構造の変化に対応した発明が必要で,そこにおける日本の役割は大きいことも指摘された。「産業を支えるエネルギ源はこれまで『木』→『石炭』→『石油』と変化してきたが,これからのエネルギは『太陽』。産業全体のパラダイムが変化している中で,これまでの『効率化』の発想では他国に遅れをとることになる」「環境やエネルギの問題,水不足や食料難など,世界の大衆は多くの不安を抱えている。その不安を解決することこそイノベーションであって,そこで日本の技術を生かせる」「江戸時代は完全なサステイナブル社会だった。そこから学ぶべきことは多いはずだ」などの発言があった。

 加えて,組織や業界をまたがる「才能」のコラボレーションが,発明には不可欠であることも議論された。「異分野の科学者(または技術者)がそれぞれの持つ課題を持ち寄ることで,発明につながりそうな発想が出てくることがある。例えば,異分野の科学者と話をしていて,無数の小さな穴が開いたフラクタルの物体に光を当てたらどうなるだろうかという話題になった。光は,閉じ込められて出てこられなくなる。であれば『電池として使えないか』という発想が私の中に出てきた」(西成氏)。

 今回のセッションは,同省経済産業政策局産業構造課の働きかけで試験的に行われた。実施のきっかけは,同課の企画官が,米投資会社のIntellectual Ventures社が開いた「イノベーションセッション」にオブザーバーとして参加したことだ。同セッションは,各国の著名科学者や発明家が出席して,さまざまな課題解決についてブレーンストーミングするもの。同社は世界中の発明家約500人と協力関係にあるといい,ナノテクノロジー,バイオ医療機器,ソフトウェア,家電などの30以上の技術分野で1年間に数千件以上の特許を出願している。