米IBM Corp.は,EU(European Union)の協力機関と共同で,高齢者の認知力の低下を防ぎ,独立した生活を支援するための新しい技術を開発すると発表した(発表資料)。高齢者の認知能力の衰えを防ぐ機器を開発する。この機器は家庭用機器と携帯機器を組み合わせたもので,音声と視覚情報の処理などができる。加えて,機械の取り扱いが苦手な高齢者にも使いやすいインタフェースも開発する。プロジェクトの名称は「HERMES Cognitive Care for Active Aging」で,期間は3年間。

 試作機は,動画が撮影できるカメラとマイクを備えた携帯機器となる予定。ユーザーが何らかの判断を行った際の会話や体験,位置座標,日付などを記録する。記録した情報はすべて,ユーザーの記憶を増やすために保存・処理・分析されるという。

 HERMES Cognitive Care for Active Agingでは,最終的に以下の三つのサービスを提供するシステムの構築を目指す。第1に,高齢者が最近の出来事を思い出すのを支援するサービス。例えば,ユーザーがこのシステムに「昨日,娘とモントリオールの吹雪の話をしたとき,彼女は私になんと言ったか」とたずねると,システムが時間や内容のキーワードに基づいて記録を検索し,音声や動画で記録された関連する会話を再生する。

 第2に,ユーザーがその日のスケジュールを思い出すのを支援するサービス。コーヒーがなくなりそうな場合に,ユーザーがこのシステムに向かってコーヒーを買うことを思い出させてくれるよう口に出して言っておくと,システムは「コーヒー」,「買う」といった言葉や,ユーザーの行きつけの店を関連付ける。そして,ユーザーがその店の前を通過しようすると,文章を音声に変換する技術を使って,ユーザーにコーヒーを買うことを思い出させるという。

 第3に,個人の経験を利用して記憶力を鍛えるサービス。このシステムは,ユーザーのスケジュールを把握しているため,ユーザーにそれに関わる質問をして記憶力を鍛える。例えば,ユーザーに複数の予定を提示してそれを分野別に整理するよう指示したり,次の週の医者の予約の時間をたずねたりするという。

 IBM社のIBM Research Lab in Haifaは,会話を文章に変換する技術や話者を認識する技術,音声を利用して感情を検知する技術,文章を音声に変換する技術などで同プロジェクトに貢献するという。