「あれ,何か書いてある」

 シールドの金属板を凝視していた技術者が突然声を上げる。金属シールドの表面に透かし加工が施されていたのだ。よく読めるように角度を調整すると「MITSUMI」の刻印がくっきりと浮かび上がった。このモジュールはミツミ電機製のようだ。無線モジュールの開発経験のある技術者が,ハンダごてとハンダ吸い取り器を駆使してシールドを外していく。額に汗すること15分,ようやく内部の回路が顔をのぞかせた。

「あれっ,SD カード?」

 モジュール内部には,ミツミ電機製の「MM3155」と記されたベースバンド/MAC制御用とみられるICを中心に,米RF Micro Devices,Inc.のRFトランシーバIC,IF用SAWフィルタ,RF用帯域通過フィルタなどの個別部品が多数実装してあった。

 「妙に部品点数が多いな」

 1人の技術者がつぶやく。現在の無線LAN用ICには,1チップにベースバンド/MAC制御回路とRFトランシーバ回路を集積した製品が少なくない。低IF型やダイレクト・コンバージョン型アーキテクチャを採用し,IF用SAWフィルタを不要にした製品もある。こうした最近の無線回路を見慣れている技術者からすると,シールドの下から現れた回路は1世代前のものに見えた。

 「これ,よく見るとSDメモリーカードの寸法じゃないですか」

 別の技術者が気付いた。早速,無線回路を実装したプリント配線基板の寸法を測ってみる。30mm×20mm。案の定,SDメモリーカードの寸法(32mm×24mm)にすっぽりと収まる。どうやらSDメモリーカード型無線LANモジュールの基板を,そのまま実装したに違いない。1世代前のSDメモリーカード向け無線LANモジュールを流用することで,部品コストの低減を図ったようだ。