もちろん,特許を取得したからといってGoogle社がすぐに無線通信事業に乗り出すとは限らない。それでも,インターネットの検索技術をコアコンピタンスにする同社が,黎明れいめい期に検索技術とは直接関係ない技術についてまでも特許を出願しているという事実は,自由闊達かったつな同社の開発風土を如実に物語っている。それを考えれば, 2005年9月に大規模分散コンピューティングや,バイオとナノテクの融合といった分野における共同研究について,米航空宇宙局(NASA)と提携したことにも違和感はない。

 米国カリフォルニア州のマウンテンビュー市にある本社オフィスには,来訪者の目を引く大きなホワイト・ボードが掲げられている(冒頭の写真)。そこには「GOOGLE’S MASTER PLAN」(総合計画)というタイトルが付けられ,将来の計画やそれを実現するために必要な技術などがびっしりと書き込まれている。同社のエンジニアたちが思い付くままに書いたものだが,中には「Google OS」「宇宙ステーション」といった言葉も見受けられる。広報担当者によれば,「あくまでもジョーク」とのことだが,エンジニアたちが既存の枠にとらわれない大きなビジョンを持って働いている様子がうかがえる。

影響分野が急拡大

 こうしたエンジニアたちを1つに束ねるのが「世界中の情報を整理し,誰でもアクセスできるようにする」というGoogle社の社是である。そのためならば検索技術にこだわらず,さまざまな技術の開発に取り組んでよいということを暗に意味している。こうして生まれた成果がやがて,さまざまなエレクトロニクス分野に影響を与えるようになる可能性は高い。

 多種多様な分野で技術開発を行うGoogle社は,技術力を売り物にしたベンチャー企業がひしめく米国シリコンバレーでも異彩を放っている。同地で起業したばかりのあるエンジニアは「Google社のおかげでエンジニアの賃金相場が上がってしまった」とぼやく。Google社はシリコンバレーが不況のどん底に沈んでいた2001年前後でも,人材を貪欲どんよくに採用していたほど。優秀なエンジニアの獲得には努力を惜しまない同社の姿勢が,やがてシリコンバレー一帯の採用事情に大きな影響を与えるようになったわけだ。