「新しい半導体製造会社の設立と弊社への投資によって,我々は現在より財務的に安定する。フォーカスを絞る企業として変身させる」。米Advanced Micro Devices, Inc.(AMD社)は,同社の製造部門を切り離して新シリコン・ファンドリー企業「The Foundry Company」(仮名)を設立すること(Tech-On!関連記事)を説明する報道機関向け電話会議において,AMD社のpresident and chief executive officerであるDirk Meyer氏は同氏の期待をこのように述べた。

 Meyer氏の発言が指摘しているのは,新製造会社を設立する取引条件によってAMD社に約22億米ドルが流れることである。まず,新製造会社はAMD社の約12億米ドルの負債を引き継ぐ。さらに新製造会社の株式55.6%を持つ予定のアブダビ首長国の投資会社Advanced Technology Investment Co.は,AMD社の新製造会社の保有権を購入するためAMD社に7億米ドルを支払う。もう1社のアブダビ首長国の投資会社Mubadala Development Co.が,AMD社への追加投資のため3億1400万米ドルも支払う。この資金流入によって「我々のバランスシートはすぐに改善する」(Meyer氏)。かつてカナダATI Technologies社を高額で買収したときのAMD社に対する業界の印象(Tech-On!関連記事その1その2)を思い起こさせつつ,金融業界が混乱している現在の状況の中でもAMD社の経営が安定していることをアピールしているようにみえる。

 新製造会社の設立はいくつかの条件を満たした後に,2009年初めごろに完了する予定である。しかし,これがうまく進むかどうか,疑問点もある。米国では2006年ごろにドバイ首長国のDubai Ports World社が,米国における港の設備を経営する企業を買収することに対して,政治的な論争が起きたことがあったからだ。今回の場合,アラブ首長国連邦関連の企業が新製造会社の大部分を保有する。新たな政治的な論争が立ち上がる恐れについて,新製造会社のchairmanになる予定のHector Ruiz氏(現在AMD社のchairman)は「私には,新製造会社の設立には何の障壁もないと考えている」とした。なお報道機関向けの電話会議では,新製造会社に関連する研究開発センターをアブダビに設立することの検討が進んでいることも明らかとなった。

 新製造会社のchief executive officerとなる予定のDoug Grose氏(現在はAMD社,senior vice president of manufacturing operations)によると,新製造会社の社員は3000人以上になるようだ。この大部分はドイツのドレスデン工場で働くが,ほかには現在AMD社の米カリフォルニア州サニーベール市や米テキサス州オースティン市,米ニューヨーク州イースト・フィッシュキル市のオフィスに勤めている約300人を含む。だが,AMD社のMeyer氏によれば,新製造会社設立によってAMD社の社員をレイオフさせる可能性もあるという。