図1●作製した高分子膜のうちの一種。製膜後に大きく延伸すると色が変わる。力を除いて戻すと,元の色に戻る。
図1●作製した高分子膜のうちの一種。製膜後に大きく延伸すると色が変わる。力を除いて戻すと,元の色に戻る。
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図2●別の種類の置換ポリアセチレンを用いて試作した高分子膜。黄色と無色の間で色が変化する。
図2●別の種類の置換ポリアセチレンを用いて試作した高分子膜。黄色と無色の間で色が変化する。
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図3●波長540nmの光を用いて吸光度を測定した結果。図1と同じ種類の高分子膜を使って測定した。可逆変化であることが分かる。
図3●波長540nmの光を用いて吸光度を測定した結果。図1と同じ種類の高分子膜を使って測定した。可逆変化であることが分かる。
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 産業技術総合研究所は,膜にかかっている張力に応じて色が瞬間的・可逆的に変化する高分子膜を開発した。歪みゲージの代わりに構造物などに張ることによって表面の応力を簡易に可視化したり,各種の膜体の構造検討などに応用できるとみている(同研究所のリリース)。詳細は,2008年10月20日~21日に産総研のつくばセンターで開催予定の「産総研オープンラボ」で公開するという。

 開発したのは,同研究所のナノテクノロジー研究部門分子 スマートシステムグループの主任研究員である土原健治氏である。今回の高分子膜は,クロロホルムなどの有機溶媒に溶かして液状とした置換ポリアセチレンを伸縮性のある基板上にたらし,それをスピンコート法(遠心力によって液体を延ばして均一な膜にする方法)によって製膜,溶媒を蒸発させることで作製した。原料であるポリアセチレンの置換基をさまざまに変えると,黄色と茶色,無色と黄色,紫色と青色など,さまざまな色で瞬間的・可逆的に張力に応じた色変化を示した。色の変化は延伸倍率ではなく,張力に依存して生じるが,どのくらいの張力で明確な色の変化が生じるかは現在のところ明らかにしていない。

 色がどうして変化するのかという詳細なメカニズムは今後,解明していく必要があるが,現時点では,張力によって膜が延びたり戻ったりするのに伴い,高分子の主鎖の状態が変化したためと考えている。今後は,さらに明確で安定した色の変化を実現するため,高分子の種類を増やすほか,基板の調整や,基板なしの単独膜の色変化の研究,ほかの樹脂への練り込みなどについても研究を進める予定だ。

 なお,置換ポリアセチレンとは,ポリアセチレンの水素原子が何らかの置換基で置き換わった高分子の総称である。ポリアセチレンは導電性高分子として有名だが,空気中で不安定なため実用化が難しかった。これに対してポリアセチレンに置換基を導入すると,空気中で安定になり,有機溶媒にも溶けやすいのでスピンコート法などが使いやすい。産総研では,従来もさまざまなタイプの置換ポリアセチレンの合成や,その薄膜の光学的性質の制御について研究を行ってきており,これが今回の成果につながった。