もはや単なる「大画面・高画質」では消費者が納得しない—。テレビ・メーカー各社のブースでは,横並びの技術競争から脱却し,自社の個性を技術で どう実現するかに力点が置かれた。有機ELという新技術を最大限にアピールしたソニー,液晶技術を徹底追求したシャープや日本ビクター,あらゆるディスプ レイ技術を総動員した日立と,各社の個性がはっきりした。

 「『技術のソニー』復活の象徴だ。反転攻勢の旗印にしたい」—。2007年10月1日,ソニーは11型有機ELテレビの発売を発表した。記者会見には, 当初は登壇予定がなかった同社 代表執行役社長 兼 エレクトロニクスCEOの中鉢良治氏が駆け付け,有機ELテレビの位置付けについて,このように熱く語った。

 その発表の翌日の2007年10月2日から6日にかけて開催された「CEATEC JAPAN 2007」。多くの来場者が目当てにしていたのが,この有機ELテレビだろう。電機メーカーの「顔」であるテレビの展示には,例年大きな注目が集まる。し かし,ここ数年は,薄型テレビ事業での出遅れを象徴するかのように,話題を呼ぶソニーの展示は少なかった。その同社が,今年は満を持して主役に躍り出た。

 ソニーが展示した有機ELテレビは,試作品ではなく2007年12月1日に発売する最終製品であったため,消費者の目線で品定めする来場者が多かった。 その観点から来場者の目を引いたのは,必ずしも有機EL特有の色鮮やかな画質ではない。むしろ,最薄部の厚さ3mmという薄さをウリにしたデザイン性の高 さにあるといえるだろう。ここ数年で,薄型テレビの画質は急速に向上した。このため,従来から画質の高さに定評があった有機ELでも,画質だけで他方式の 薄型テレビと一線を画し,消費者に驚きを与えることが難しくなってきている。ソニーの有機ELテレビの外観は,そうした状況を端的に示したといえる。

バックライトを薄くする

この状況は,現行の液晶テレビにとっても同じである。消費者に驚きや新たな生活シーンを提案すべく,画質の向上以外に開発の軸足を置く必要が高まってい る。その一つとして,各社がこぞって取り組み始めたのが,「超薄型」という提案だ(図1-1)。日立製作所やシャープ,日本ビクターなどが試作品を披露し た。これら液晶テレビ陣営にとっては,薄さをウリにする有機ELテレビに先手を打つという意味合いも当然あるだろう。

図1-1 「超薄型」ディスプレイが続々登場  大型液晶テレビと中小型ディスプレイの二つの分野で,「超薄型」品の展示が相次いだ。30型を超える大型液晶テレ  ビについては日立製作所,シャープ,日本ビクターが試作品を披露した(a)。日立製作所の試作品の画素数は1366  ×768。シャープと日本ビクターは1920×1080である。超薄型で10型台のディスプレイとしては,ソニーが  有機ELテレビ,シャープが液晶パネルを出展した(b)。画素数はソニーの有機ELテレビが960×540,シャープ  の液晶パネルが1280×800。図に赤字で示した厚さは,最薄部の値である。
図1-1 「超薄型」ディスプレイが続々登場 大型液晶テレビと中小型ディスプレイの二つの分野で,「超薄型」品の展示が相次いだ。30型を超える大型液晶テレ ビについては日立製作所,シャープ,日本ビクターが試作品を披露した(a)。日立製作所の試作品の画素数は1366 ×768。シャープと日本ビクターは1920×1080である。超薄型で10型台のディスプレイとしては,ソニーが 有機ELテレビ,シャープが液晶パネルを出展した(b)。画素数はソニーの有機ELテレビが960×540,シャープ の液晶パネルが1280×800。図に赤字で示した厚さは,最薄部の値である。 (画像のクリックで拡大)

 このうち,実用化で先陣を切るのは日本ビクターだ。厚さ3.7cmの42型液晶テレビを,2008年3月に欧州で発売する。早期に実用化するため,現行 のバックライト光源である冷陰極蛍光管(CCFL)を利用しながら薄くした。「単にバックライトを薄くすると輝度ムラが発生する」(同社)ことを抑えるた め,シミュレーションなどを交えて光学系を最適化した。これにより,液晶パネルの厚さを3.53cmから2cmに薄くできたという。

 一方,日立製作所やシャープは,さらなる薄型化を図るため,バックライト光源にLEDを採用したとみられる。発光効率やコストから,実用化は2009~2010年ころを見込むが,2cmを切る厚さに仕上げられることを示した。

新方式の超薄型ディスプレイ