Stanford大学Professor of Computer Scienceでdirector of the Artificial Intelligence LaboratoryのSebastian Thrun氏
Stanford大学Professor of Computer Scienceでdirector of the Artificial Intelligence LaboratoryのSebastian Thrun氏
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 2008年8月24~26日に,米Stanford Universityで開催された「Hot Chips 20」の基調講演は,Stanford大 Professor of Computer ScienceでDirector of the Artificial Intelligence LaboratoryのSebastian Thrun氏による「Cars that drive themselves」だった。2004年と2005年に開催された米DARPA主催の「DARPA Grand Challenge」で,自動車の自動走行に挑んだ結果について,動画などを交えて解説した。Stanford大は2005年に優勝し,賞金200万ドルを獲得している。

 Grand Challengeは2004年に賞金100万ドルで,カリフォルニア州Primm市からネバダ州Barstowまで,砂漠の中の無人の道を自律走行できるシステムを開発し,その速さを競うというものだった。106のチームが挑戦したが,「コースの5%も走りきれずに,全車両がリタイアした」(Thrun氏)。

 Grand Challenge 2005に挑戦するに当たり,基本設計としてGPSで場所を検知し,規定のルートに従って操舵する。GPSだけでは精密な位置が分かる保証がないため,道路上を走るために,レーザで前方45度を照射して障害物を検知するという方式を採用した。ただ単純に障害物を認識させると,「道の荒れ方によって自動車のピッチング角が変わり,道路上の小さな障害を乗り越えられない障害と誤認識する」(Thrun氏)。このため確率モデルを導入することで,12.6%あった誤認識を0.02%にまで抑えることができたという。

 ただしレーザでは前方25mまでしか検知できない。「人間は視覚によって200m先まで見て状況を判断している。そこで人間と同じように光学式カメラで360度写し出し,道がどのように続いているか判断できる仕組みを導入した」(Thrun氏)。複数画像をつなげて連続的な1枚の画像とし,そのなかの「一番スムーズなところが道だろうと考えた。ところがそれは,空だった」(Thrun氏)という失敗をしながらも,道を光学的に検知する技術を開発したという。なお,複数画像をつないで1枚の画像にする技術は,米Google Inc.が「Google Maps」に導入した「StreetView」機能に使われているという。

 こうした技術開発の上で,2005年10月にサウスウエスト州の砂漠で開催された本選に臨んだ。最初は米Carnegie Mellon Universityに先行を許したが,相手がコースミスをするなどの幸運にも恵まれ,132マイルを6時間53分で走破して優勝したという。完走は5チームで,うち4チームは規定の10時間以内にゴールした。

 また2007年にDARPAが開催した「Urban Challenge」にも参加した。他の自動車が存在する状況でいかに正しく運転するかがテーマで,信号や標識の認識が必要となる。Stanford大のチームはこちらでは2位だった。「こうした技術の向上により,交通事故の減少や,運転者なしでも運転できるような社会の実現に貢献したい」(Thrun氏)として講演を終えた。