松下電器産業は,甲南大学の杉本直己教授と共同で,DNAの塩基配列を電気的に識別する技術を開発した。DNAの塩基配列の違いによって,薬の効きや病気の発症リスクなどといった個人の体質に差が出ることが知られている。今回開発した技術を応用し,病院や診療所などの医療現場において個人の体質に合わせた健康管理や薬の処方を可能にするDNA解析システムの実現を図る考え。実用化の時期は「5年後」(松下電器)を見込む。

東芝も電流検出型を開発

 DNAの塩基配列を識別するデバイスとして,現在,DNAチップの開発が活発に進められている。これまで主に研究用途で使われてきたDNAチップの多くは,「蛍光検出(あるいはマイクロアレイ)型」と呼ぶ方式だった。調べるDNAに蛍光標識を付与しておき,プローブ用DNAを固定したチップとの反応後にレーザを照射して蛍光の有無や位置を確認することで,結合したのかどうか,どのDNAと結合したのか,などを判別する方式である。

 しかし,この方式は一般に装置が大掛かりになったり測定に時間が掛かったりする。医療現場で使う場合には,さらなる改良が必要となるため,さまざまなメーカーが独自の方式の開発を進めている段階である。

 その一つの提案が,電流によってDNAの塩基配列を識別する方式である。レーザなどの光学系が不要になるため検出部の装置構成などが簡素(安価)になるほか,測定に掛かる時間も短くなるといった利点が期待できる。既に,東芝などが電流検出方式のDNAチップを開発している。

東芝方式より「安価で高精度」

 松下電器が今回開発した方式は,こうした既存の電流検出方式に比べ「さらに安価かつ高精度にできる」(同社)のが特徴とする。

 安価にできる理由は,「プローブ用DNAを固定する電極が不要」(松下電器)であるため。従来の電流検出方式では,プローブ用DNAをAu電極によって基板に固定していた。このAuが不要になるという。

 精度を高くできる理由は,誤ったDNAの結合を抑制できるためとする。松下電器と甲南大学は,意図的にプローブ用DNAの塩基配列を設計することで,DNAの接合を厳密に制御できることを見出した。この研究成果を応用することで,識別精度が高まるという。

 なお,電流検出のメカニズムとして,DNAが結合した際に放出されるリン酸化合物の量を,酵素反応で生じる電流値として検出する方法を採用する。

 松下電器は今後この技術を,医療現場での応用のほか,食品など非医療の分野で実用化することも検討している。

日経エレクトロニクスは2008年8月25日号で,DNAチップの最新トレンドに関する解説記事「研究から産業へ,風向き変わるDNAチップ」を掲載予定です。

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