規律を重んじるもう一つの理由は,顧客の機密を守るためである。「もし機密が漏れて,その原因となった従業員が特定できた場合には,その従業員が所属する部署全員が処分を受けることになりかねない」(Hon Hai社の従業員)という。

 同社は,工場で働く作業員の配置にも念を入れる。例えばソニーの製品は,基本的にソニー専用の建屋でしか製造しない。さらに作業員はそれぞれが所属する建屋ごとに異なる制服を着る。もし,ソニーの建屋で働く作業員が任天堂の建屋に少しでも立ち入ろうものなら「即座にクビになる」(Hon Hai社の従業員)。さらに,こうした事態がそもそも起きないように,工場には至る所に警備員が立って従業員を監視している。

人材をかき集める

 Hon Hai社が抱える課題として,「急成長した企業だけに,有能な中堅幹部が足りない。より多くの株式ボーナスを得ようと上にゴマをするやからまでいる」(同社の関係者)ことがある。同社のGou氏もこの課題を認識して,優秀な人材を広く求めている。

 Gou氏が挙げる人材獲得手段は四つある。(1)企業買収,(2)競争企業の近くに拠点を設けてHon Hai社への入社を容易にすること,(3)ベンチャー企業への投資,(4)ヘッドハンティング,である。

 このうち(3)は株式を継続保有することで,ベンチャー企業の技術やそれを開発した有能な人材を優先的に使うことを狙う。(4)はGou氏自らが手掛ける場合もある。例えば,Foxconn International社のDai氏の場合には,Gou氏とその秘書が半年近く,毎晩のように電話をかけて入社にこぎ着けた。ヘッドハンティングの対象には,日本の熟練技術者も含まれている。

参考文献
2) 村山,「人民元,小幅の上昇――外資系輸出企業,影響なし」,『日経金融新聞』,2006年5月2日付.