グループ企業がさまざまな部品を手掛けていることも,安さの源泉である。膨大な受注を背景に大量に自己消費することで,部品の調達コストを減らせるからだ。Hon Hai社は携帯電話機の場合,カメラ・モジュールや2次電池,ケーブルなどをグループ内で賄える注3)。同じEMS企業である「シンガポールFlextronics Corp.の場合,工場出荷額に占める内製率は10~15%ほど。Hon Hai社は30%を超えているはず。だからこそ,業界最低水準の価格で受注しても利益を得られる」(米T. Rowe Price International, Inc.,Vice PresidentのAlison Yip氏)。

注3) このうちカメラ・モジュールと2次電池は台湾Cheng Uei Precision Industry社(通称Foxlink)が手掛けている。同社はHon Hai社の連結決算に組み込まれないが,「実態は完全なグループ企業」(Cheng Uei社の従業員)である5)。Cheng Uei社の経営者は,Hon Hai社のGou氏の実弟であるT. C. Gou(郭台強)氏。Credit Suisse First Bostonの調べによると,Cheng Uei社に対するHon Hai社の持ち株比率は3%である。Cheng Uei社の2005年度の連結売上高は969億円,連結営業利益は60億円。同社は,iPodやXboxの周辺機器も製造している。

 自社の在庫リスクを抑えるために,自社調達したり内製したりする部品を峻別するしたたかさもHon Hai社は兼ね備えている。パソコンの受託製造では在庫リスクを抑えるため,マイクロプロセサやDRAMといった高価な上に価格が急落しやすい部品については,状況に応じて委託元に調達してもらっている。こうした半完成品状態で出荷する「ベア・ボーン」と呼ぶ流通形態は,同社CEOのGou氏が考案したという(図4注4~5)

注4) パソコンを自作する消費者向けに,こうした構成のまま販売することも少なくない。ベア・ボーンの消費者向け販売だけを取り上げれば,台湾ASUSTeK Computer社が最大手とみられる。

注5) Hon Hai社の場合,内製部品は「速い」にも貢献する。組み立て工場のすぐ近くでグループ企業が部品を製造することが多いからだ。こうした立地は筐体のような大型部品について物流費を減らす効果もある。
図4 事業範囲は総合電機メーカーに匹敵  Hon Hai社は,獲得できる付加価値が民生機器の製造・流通過程の中で最も低いといわれている機器の組み立てに,20万人近くの人員と,新鋭の設備を投入することで採算性を高めている。加えて,グループ企業がMg合金の生産などの材料事業や,金型の設計・製造といった部品事業を手掛けている。機器組み立て部門は,グループ企業をグループ外企業と絶えず競わせて部材の購入を決める。これがグループ全体の利益額を押し上げている。
図4 事業範囲は総合電機メーカーに匹敵  Hon Hai社は,獲得できる付加価値が民生機器の製造・流通過程の中で最も低いといわれている機器の組み立てに,20万人近くの人員と,新鋭の設備を投入することで採算性を高めている。加えて,グループ企業がMg合金の生産などの材料事業や,金型の設計・製造といった部品事業を手掛けている。機器組み立て部門は,グループ企業をグループ外企業と絶えず競わせて部材の購入を決める。これがグループ全体の利益額を押し上げている。 (画像のクリックで拡大)

 「うまい」については,米Apple Computer,Inc.の「iPod nano」やSCEの「PSP」などで金属や樹脂筐体の表面加工,プリント基板の高密度実装といった製造技術の高さを実証済みである注6)。生産量を背景にした新鋭製造設備の大量導入などによって実現した。「一度に50台といった日系メーカーでは考えられない量を発注してくれる。我々も納期や使用方法などで協力しないわけにはいかない」(射出成形機メーカーの営業担当者)。

注6) このほか,Apple社の「Power Mac G5」のアルマイト処理を施したAl合金製筐体は,Hon Haiグループが提供したことが判明している。Apple社はWWWサイトに「緻密にデザインされた美しいシャーシが自慢」と記していた。

 さらにHon Hai社は「大口発注者の要求に決してノーと言わない」(同社と取引する部品メーカーの営業担当者)ことで,着々と生産技術を吸収した。例えば,ソニーの一部最終商品は「セル生産を取り入れて造っている」(Hon Hai社の関係者)。

参考文献
1) Yip,A.,“Hon Hai Group,Gou’s empire - the rising family,”Credit Suisse First Boston Equity Research,Jan. 2005.
2) Yip,A.,“Foxconn International Holdings,The cream of the crop,”CreditSuisse First Boston Equity Research Asia Pacific,Sep. 2005.
3) Yip,A.,“Hon Hai Precision,Long-term growth story,”同上,Jun. 2006.
4) 「訪談報告 富士康FIH(2038HK)」,群益投顧,http://www.e-capital.com.hk/report/Detail.asp?CFECIID={162806A0-A666-464A-85C6-360363DE137E},2006年4月.