MITが開発した,集光用導光板。光っている端面に太陽電池セルを張り付けて利用する。(C)Photo by Donna Coveney, MIT
MITが開発した,集光用導光板。光っている端面に太陽電池セルを張り付けて利用する。(C)Photo by Donna Coveney, MIT
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 米Massachusetts Institute of Technology(MIT)は,レンズを使わない新しいタイプの集光式太陽電池を開発した。学術雑誌「Science」の2008年7月11日号で論文を発表した。これによって「将来的には,高い変換効率を備えた太陽電池セルのコストをレンズや太陽追尾装置などを使わずに,1/10以下に引き下げられる」(同論文)という。

仕組みは液晶バックライトの逆

 この集光式太陽電池は,屈折率の高いガラス板に,特定の波長の光を当てると蛍光発光,または燐光発光する有機色素材料を成膜し,さらに導光板となるガラス板の端面に太陽電池セルを張り付けた構造を取る。光源にLEDと導光板を用いる液晶パネルのバックライトを似た構造で,光の進む向きが逆になる。バックライトではLEDから出た光が導光板を介して面発光するのに対して,この太陽電池は導光板に当たった太陽光が太陽電池セルに集められるのである。

 有機色素材料を導光板に成膜するのは,太陽光の特定の波長帯の光を効率よく太陽電池セルに導くため。つまり,光の分光機能を併せ持つ集光装置を備えた太陽電池となる。この導光板を有機色素材料の種類を変えて積層すれば,「タンデム型」や「トリプル型」の太陽電池で,太陽光の利用効率を高められる。

 従来の集光式太陽電池はレンズで光を集めるため,レンズの焦点距離の分,パネルが分厚くなるのが避けられない。加えて,太陽電池が高温になるのを避けるために,ヒートシンクを裏面につける必要があり,これがさらにパネルを分厚くしていた。

 一方,今回の方式では厚みを大幅に薄くできる。熱の問題も,赤外線を集光しないようにできるため,大きく軽減する。さらに,太陽を追尾する必要がないため,システム全体が格段に軽量になる。

元の太陽電池セルの変換効率以上の性能を確認

 こうしたアイデアに基づく太陽電池は既に1970年代に試作されたことがあるが,導光板で光のエネルギーの98.7%が失われてしまい,実用的でないとされていた。今回は,「色素材料に対する様々な知見や成膜技術の進歩で従来のものより優れた導光板を作れるようになった」(MITの論文)とする。

 最終的な太陽電池セルの変換効率をシミュレーションしたところ,CIGS型太陽電池セルでしかもタンデム型の場合に,集光なしで13.1%だった値が集光することで最大14.5%になったという。ただし,導光板ではやはり一定の光が失われるため,導光板を大きくすればするほど効率が高まるとは限らないようだ。「今後,材料やタンデム構造の最適化を進めることで,効率20%以上も見込める」(同論文)という。