前回までのあらすじ
Apple社がiPodの開発で外部のメーカーと協力したことは,エレクトロニクス業界ではよく知られている。LSIメーカーの米PortalPlayer,Inc.や1.8インチ型HDDを手掛ける東芝などがパートナーだったとみられる。iPodを分解して分かる部品構成が,これらのメーカーと力を合わせたことを示唆している。(以下の本文は,『日経エレクトロニクス』,2004年6月21日号,pp.237-239から転載しました。メーカー名,肩書,企業名などは当時のものです)

Make It Smart Enough

 ファームウエアの開発でApple社の意向を反映した可能性があるのは,例えば楽曲をキャッシュするアルゴリズムである。Portelligent社は分解に先立ってiPodが消費する電力を調べた。その結果判明したのが,HDDの消費電力が,他の部品と比べて段違いに大きいことだった。電力を食うHDDをなるべく動作させず,楽曲の再生中に音飛びを防ぐには,キャッシュのアルゴリズムにそれなりの工夫が必要になる。

 アルゴリズムのポイントは,次にどの曲が再生されるかを先々まで予測し,HDDを起動したときに一気にDRAMに転送してしまい,すぐにHDDを止めること。

 「そのためには,ランダム・モードで曲を再生するときでも,次にどの曲が来るのかを把握しなければならない。恐らく一番の問題は,ユーザーの気まぐれな行動だろう。ユーザーが,この曲は嫌い,この曲はダメと,次々に曲を選んだりすると,HDDを何度も起動して,大幅に電力を消費しかねない」(David)。

 iPodは基本的に,事前に登録した「プレイリスト」か,特定のアルバムやアーティストに対応する楽曲群を再生する。ランダムに曲を再生する場合も,その範疇内で曲をシャッフルする。他のリストやアルバムの曲を聴くには,ユーザーはメニューの階層を遡って,リストやアルバムを選び直す必要がある。この枠組みの中では,ユーザーが聞きたい複数の曲をまとめてキャッシュする仕組みは,うまく働くと見られる。なお,現在PortalPlayer社のWWWサイトにある FDKの説明によると,同社にはHDDの動作時間を音楽の再生時間の2%以下にする技術があるという。