彼らは着手した当初から,作業が無に帰す場合すら覚悟していたという。「たとえ僕らがこれがAppleにとって重要じゃないと言っても,仕事を追われることはない。それはAppleのやり方じゃないんだ。ここでは,みんながいろんなことを試してる。そのために,適正な能力があって,技術の変化に敏感な人材を雇ってるんだ」。

Useless Products

 2人は,競合他社の製品の分析から始めた。すぐに分かったのは,既存の携帯型音楽プレーヤに失望するのは,彼らだけではないことだった。大部分のユーザーは,購入した数週間後には,音楽プレーヤを使わなくなる。何回か試しただけで,放置してしまうのだ。仮にApple社の製品だとすれば,到底受け入れられない惨状である。

 原因は明白だった。ユーザーは何百枚ものCDから吸い上げた楽曲を,パソコンに蓄えている。ところが半導体を利用した音楽プレーヤに保存できるのは,せいぜい10数曲である。その時々に聴きたい曲を持ち運ぶには,プレーヤの内容を何度も入れ替えなければならない。その手間をユーザーは厭いとうのだ。

 大容量のハード・ディスク装置を使って,この手間を省こうとした製品もあった。こうしたプレーヤの難点は,大きすぎることだった。とても持ち運びに向くとはいえない。

 使い勝手の問題も露呈した。製品によっては,10~15個ものボタンが付いている。多すぎるボタンは,時としてユーザーに悪夢をもたらす。単に好きな音楽に聴き入りたいだけなのに,望みの曲にたどり着くまで,複雑極まりない操作を強いられる。

 2人が下した診断はこうだった。現在手に入る携帯型音楽プレーヤは,パソコンの周辺機器にすぎず,技術に目がない新しもの好きしか飛び付かない。Apple社が目指すべきは,全く別の領分だ。音楽ファンの日常に欠かせない,万人に愛される製品がそれである。 =敬称略

―― 次回へ続く ――