米国はビッグ3を復活させる

田中栄(アクアビット代表取締役) 米国自動車メーカーのGM,フォード,クライスラーといったビッグ3は,現在厳しい状況に立たされている。しかし,中期的に見て,米国政府はこれらの企業を決して潰さないと考えられる。米国にとっても,自動車産業の裾野は広く,先進国が占めるべき産業として譲れないものである。失った場合,米国経済に与える影響は余りにも大きい。経済だけなく,米国社会に対しても大きな打撃を与えると予想される。それは,自動車メーカーが米国の「誇り」だからと考えられる。米国は必ず,威信を賭けて自動車メーカーを復活させるだろう。

 米国が自動車産業を復活させるために戦略として考えることは何か。それは,「競争ルールを変えよう」ということである。つまり,今のルールに基づく自動車の競争に負けているなら,別なルールに変えてやり直せばいいという考えだ。米国が画策するその新しいルールこそ「環境」や「エネルギー」,「プラットフォーム型ビジネス」なのである。「日本はハイブリッドなど環境技術で先行していから大丈夫だ」「京都議定書から脱退した米国は環境対策が遅れている」などと考えていると,足元をすくわれるだろう。

 確かに,これまではハイブリッドが環境技術の中心的存在であったが,製造時やリサイクルまで含めたライフサイクルでの評価になると,ハイブリッド技術は必ずしも有利とは言えない。複雑な機構であるということは,それだけ人手やエネルギーが余計に掛かるということだ。環境負荷はそれだけ大きくなる。エンジンとバッテリー両方のシステムを積むので重量はそれだけ重くなる。それを上回るだけのメリットが得られるかが問題だ。

 米国は世界最大のバイオエタノール輸出国であり,世界最大の自動車市場を抱えている。当然のことながら,自国における環境基準はバイオエタノールの利用促進につながり,かつ自国の自動車産業にとって有利な方向に持っていこうとするだろう。極端に言えば,「カーボンフリー」とされるバイオエタノール=環境という評価になる可能性だってある。

 つまり,「環境性能」を評価する尺度は必ずしも一律ではないのである。米国はその尺度を自国の自動車産業が復活する方向に作り変える力を持っている。そして,その新しい尺度に基づいて新しい技術が開発され,米国主導の再編が再び起こる可能性が高い。

 その一手が「バイオエタノール」なのだ。少なくとも米国内において,自動車のエネルギーとして何を使うか,何を以って「環境対策」とするかを決めるのは米国政府次第なのである。既に「E-85」(エタノールを85%含有する燃料)などが,実際に使われ始めている。環境対策を旗印に,将来的には「米国内では化石燃料を消費する車は認めない」となる可能性だってある。