図1:富士通と富士通研究所が開発した,78G〜93GHzの無線周波数帯域を利用して伝送速度10Gビット/秒以上の送信が可能な送信器
図1:富士通と富士通研究所が開発した,78G〜93GHzの無線周波数帯域を利用して伝送速度10Gビット/秒以上の送信が可能な送信器
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図2:インパルス無線伝送方式の説明図
図2:インパルス無線伝送方式の説明図
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図3 伝送速度10Gビット/秒に相当するパルス信号の実測結果
図3 伝送速度10Gビット/秒に相当するパルス信号の実測結果
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 富士通と富士通研究所は,78G~93GHzの無線周波数帯域を利用して,インパルス無線伝送方式により伝送速度10Gビット/秒以上の送信が可能な送信器を開発した(発表資料)。インパルス無線伝送方式とは,非常に短い時間に変化するパルス信号を発生させ,フィルタにより使用周波数成分のみを抽出して送信する伝送技術。発振器が不要で,パルス発生器と送信増幅器の2部品で送信部を構成できるため,送信器を小型化できる。開発した送信器の外形寸法は70mm×56mm×20mmで,従来の装置に比べ容量を約30%に抑えられたとする。

 70G~100GHz帯はミリ波帯(30~300GHz)の中でも大気吸収による電波の減衰が少なく,数km以上の無線伝送が可能。70G~100GHz帯でインパルス無線伝送方式を利用するには,変化量がパルスの最大変化量の2分の1以上の状態にある時間(半値幅)が10ps以下のパルスが必要という。今回,富士通などはInP HEMT(indium phosphide high electron mobility transistor)を用いたデジタル回路をベースとするパルス発生器を開発し,半値幅が7.6psの非常に短いパルスを生成した。パルスから伝送に必要な周波数帯を抽出するフィルタは,Al2O3基板上に多段結合線路型フィルタを形成した。これにより,通過帯域が78G~93GHz,通過損失が1.5±0.1dBの性能を得たという。

 今回の成果により,ミリ波帯無線伝送装置を実現するための基盤技術を確立できたとする。光ファイバーの代替として基幹回線への利用や,河川・道路横断用回線,離島通信,災害時通信などの用途を想定する。屋内向けの超高速無線LANや高分解能レーダなどにも応用可能とする。富士通などは今後,固定通信に向けた伝送試験を進める。2012年ごろの実用システム開発を目指す。

 今回の研究は,総務省委託研究「電波資源拡大のための研究開発」の一環として実施した。富士通などはこの技術の詳細を,2008年6月15~20日に米国ジョージア州アトランタで開催された「2008 IEEE MTT-S International Microwave Symposium(IMS2008)」で発表した。