2010年をメドに安全運転支援を実現
日経エレクトロニクス 2006年5月8日号,pp.84-86から転載。所属,肩書,企業名などは当時のものです。

今や日本の産業を支える屋台骨となった自動車産業。だが,自動車を取り巻く環境は厳しさを増している。今後の発展のためには,CO2排出量の削減をはじめとした環境問題と交通事故件数の削減など安全に対する問題を解決していかなければならない。環境面ではハイブリッド車や燃料電池車など,日本メーカーは世界の先端を行く。これに対して,安全面では自動車単独で進める予防安全に限界が見え始めてきた。より高い安全性を求めて,無線通信を使った運転支援システムの実用化競争が世界で始まっている。

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 「2012年度に交通事故死者数5000人以下を達成する」――。2006年1月,小泉純一郎首相を本部長とするIT戦略本部は「世界一安全な交通社会」を目指し,こう宣言した。政府はこの数値目標を達成するために「インフラ協調による安全運転支援システム」を実用化することを決めた注1)。つまり,無線通信を利用して自動車や道路,歩行者の間でさまざまな情報をやりとりさせることで,交通事故の削減に乗り出そうというのだ。

注1) インフラ協調による安全運転支援システムとは,IT戦略本部によると「車両からは直接見えない範囲の交通事象に対処すべく,車両がインフラ機器(路側設備や他車両に搭載された機器,歩行者が携帯する機器も含む)との無線通信により情報を入手し,必要に応じて運転者に情報提供,注意喚起,警報などを行うシステム」のこと。

 自動車分野で無線通信を使うこと自体は,決して目新しいものではない。国の政策と絡んで,既に実用化されているサービスもある。ITS(高度道路交通システム)の一環としてサービスを開始したVICS(道路交通情報通信システム)やETC(自動料金収受システム)などだ。

 VICSは,カーナビに交通情報を配信するシステムとして1996年にサービスが始まり,日本のカーナビ普及を促進した。一方,ETCは高速道路などの料金所での渋滞緩和を目的に2000年に実用化された。2006年4月時点で累計1100万台以上の車両にETC車載器が取り付けられ,高速道路でのETCの平均利用率は60%を超えている。