「夏と夜は動作が鈍くなる」

 PLDの開発以前,同社営業部長の山口幸隆氏は,何人ものユーザーから共通した指摘を受けていた。それは「夏場や夜間は,フロントローダの動作が鈍くなる」というものだ。不思議に思った山口氏はユーザーを訪問し,調べた結果,それぞれの原因が判明した。

松本 浩氏
三陽機器 創造部
メカトログループ グループリーダ
松本 浩氏

堤 俊雄氏
三陽機器 創造部
メカトログループ 主任
堤 俊雄氏

 夏場に動作が遅くなる原因の一つは,外気温だった。外気温が高い日は,フロントローダを動作させる油圧バルブ内の油温が上昇し,これとともに電磁弁のソレノイドも熱くなってしまう。その結果,ソレノイドの抵抗値が上がり,動作が鈍くなってしまうのだ。

 原因は,それだけではなかった。トラクターの操縦席であるキャビン内にエアコンを設置していると,そのエアコンが電力を消費することによって,ソレノイドに印加される電圧が下がることから,フロントローダの動作が遅くなっていた。夜間に動作が遅くなる原因も,ヘッドライト点灯によるソレノイド駆動電圧の低下だった。トラクターは自動車と同じ12Vのバッテリーを搭載しているものの,フロントローダやエアコン,ヘッドライトなど,電力を消費する装備が相次いで追加されたことによって,電力の供給能力に余裕がなくなっていたわけだ。実際に測定してみると,12Vの電圧が10.5Vにまで下がっているケースもあったという。これでは動作に影響するのも無理はない。

 原因が分かったものの,同社はトラクター本体を製造しているわけではないので,トラクターの設計を変更するような対策はできない。しかも,搭載するフロントローダの仕様はユーザーによって異なる。今後,電力を多く消費する新たな装備が登場する可能性もある。こうした条件を考慮した結果,外気温や電圧の変動を測定し,これに合わせてフロントローダの機構系を制御するマイコン・システムを開発することにした(図3)。「油圧バルブに取り付けた油温センサーと電圧監視回路で,油温は25℃,電圧は12Vを基準にどのくらい変化しているかを見て,マイコンで必要な出力値を計算し,フロントローダの制御信号を調整するわけです」(同社創造部メカトログループの堤俊雄主任)。

図3
図3 フロントローダに搭載したマイコン基板

 このシステムを導入したことによって結果,夏場も夜間もフロントローダは一定の動作するようになり,ユーザーの不満も解消された。2003年発売のモデルからは,フロントローダの動きを監視して補正するフィードバック・システムも搭載。さらに動作の安定度を高めるなど,同社のフロントローダの制御システムは,いまも着々と進化を続けている。