産業技術総合研究所は,純度を高めた半導体単層カーボン・ナノチューブ(SWCNT)を用いたトランジスタの作製に成功したと発表した(発表資料)。作製したトランジスタのオン/オフ比(オン時とオフ時のドレイン電流の比)は1×105以上であり,キャリア移動度は2cm2/Vs以上という。

 今回,高濃度のSWCNTを得られる技術を開発し,トランジスタ作製に用いた。まず,市販のSWCNT原料粉末を共役高分子であるポリフルオレン(PFO)を分散剤として溶液中に分散し,続いて毎分3万回以上という超遠心分離することで,選択的に分離した半導体SWCNTの上澄み液を抽出する。PFOを取り除いた後,半導体SWCNT溶液を基板上にコーティングすることで半導体SWCNT膜を形成している。SWCNT薄膜を用いるトランジスタは,コストが安く,量産性に優れ,大面積化も容易とみられているが,半導体SWCNT以外に金属SWCNTや金属不純物が少しでも混入するとトランジスタの性能が著しく低下してしまう。そのため,高純度の半導体SWCNTを分離・抽出する技術の開発が強く望まれていたという。

 今回,高品質な半導体SWCNT薄膜を作製するために,60分間超遠心分離を行い,金属SWCNTなどの不純物を検出限界以下にまで除去した。加えて,超遠心分離後に半導体SWCNT分散液中に残存するPFOの除去を図ったという。ろ過や洗浄,加熱処理などを行ったほか,スピンコートなどによる薄膜化の条件についても検討したとする。

 薄膜作製にはトランジスタの特性を高めるため,誘電泳動法と呼ばれる手法を用いて薄膜と同時にランダムな方向を向いているSWCNTの配向化を試みた。具体的には,あらかじめ作製した電極対上に半導体SWCNT分散液を摘下し,電極間に交流電場を加えながら溶媒を蒸発させたという。これにより,SWCNTが電極間に集中すると同時に電場方向に配向させることができたとする。

 本研究成果は2008年6月9日にApplied Physics Letters誌のオンライン版に掲載された。

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SWCNTの分散,超遠心分離の手順とSWCNTトランジスタ(画像のクリックで拡大)
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