崩れ始めた垂直統合の開発体制
日経エレクトロニクス 2006年12月18日号,pp.110-112から転載。所属,肩書,企業名などは当時のものです。

トヨタ自動車が2006年9月に発売した最高級車「レクサス LS460」。さまざまな車載システムを制御するために約100個もの電子制御ユニット(ECU)が搭載された。そのうちの3個のECUで試された新たな開発手法。それが今後,業界標準になろうとしている。車載電子分野での開発プロセスやビジネス・モデルが変わり電機業界やソフトウエア業界にまで影響が及ぶ。

 「ウチは困っている。今までのノウハウがノウハウではなくなってしまう」「非常に重たい話。これ以上は勘弁してほしい」「いや,そういうことではなくて,ビジネス・チャンスが広がるのでは」…。

 トヨタ自動車が2006年9月に発売した高級車ブランド「レクサス」の最上級モデル「LS460」。かつての旗艦車種「セルシオ」の後継で,トヨタ自動車が持つ技術の粋を結集したショールーム的な存在である。当初の月販目標台数1300台に対して販売開始から1カ月間の受注台数は約1万2000台と,まずは好スタートを切った注1)

注1) 「LS460」の価格は770万~965万円。2007年春以降にハイブリッド車も発売する計画である。

 その一方で,電装品メーカーや電子部品メーカーといったサプライヤーの技術者たちの間では今,レクサスに搭載されたある電子機器をめぐってさまざまな思惑や感情が渦巻く。ある者は戸惑いや不安を隠さず,ある者は口を閉ざし,またある者は歓迎の意を示す。

垂直統合から水平分業へ

 彼らが注目する機器とは,電子制御ユニット(ECU)である。小さな弁当箱のようなECUには,車載システムを制御するマイコンやソフトウエアなどが収めてある。いわば自動車の頭脳に当たるユニットだ。1台の自動車に搭載されるECUの数は自動車の電子化に伴って年々増え,レクサスでは最大級となる約100個にも及ぶ。

 技術者たちが気にしているのは,このうちのあるECUだ。それは,これまでの自動車業界の「常識」を覆す手法を取り入れて開発された。レクサスが断行したこの「非常識」は今後,自動車業界全体の常識になろうとしている。