ファブレスLSI企業のSynerchip社が,中国の大手家電メーカーを味方に付け,HDMIに代わる新たな高速AVインタフェース規格「DIVA(digital interface for video & audio)
」を提案した(Tech-On!関連記事)。Synerchip社のExecutive Chairmanを務めるのは,米Silicon Image社の元President & CEOで,HDMI規格の策定に深く関わったDavid Lee氏。HDMIの普及に貢献したLee氏が,HDMIの「次」を見据えたAVインタフェースの開発に名乗りを上げた格好である。

 DIVAの映像/音声信号の伝送速度は13.5Gビット/秒と,HDMIの10.2Gビット/秒をやや上回る程度だが,同時に2.25Gビット/秒の双方向通信を行える特徴を持つ。「AV信号の伝送とデータ通信を一つのインタフェースに統合することで,DIVAはデジタル・テレビを家庭内ネットワークの中心に据えることを可能にし,家庭内ネットワークを新たな段階に引き上げる」(Lee氏,プレスリリースより)。既に業界標準として不動の地位を占めつつあるHDMIにどう対抗するのか,Synerchip社 Sr. Director of Product PlanningのSteve Yum氏に話を聞いた。(聞き手=浅川 直輝)

――DIVAの仕様の特徴を教えて欲しい。HDMIとの相違点は何か。

Yum氏 二つある。一つは,双方向通信用に帯域を確保したことだ。4.5Gビット/秒の帯域を持つより対線を4本束ね,18Gビット/秒の帯域を持たせた。このうち3本を映像/音声信号に,1本を双方向のデータ通信に割り当てた。つまり,映像/音声信号は13.5Gビット/秒,データ通信は片方向2.25Gビット×2の帯域を持つ。現行のHDMIが持つ双方向通信の帯域は1kビット/秒しかない。

 もう一つは,ケーブルの価格を安価にできること。HDMIの端子数が19本と多いのに対し,DIVAはより対線4本でデータを伝送するので,端子数は8本で済む。HDMIはDVIと部分的に互換性を持たせるために端子数が多くなっていた。DIVAでは従来の端子の役割を2.25Gビット/秒のデータ通信に集約したほか,変調方式に8B/10Bを用いることでクロック専用端子を省略することなどで,端子の総数を削減できた。ケーブルや端子の仕様は今後詰めるが,我々の実験では,CAT6a仕様のEthernetケーブルでHDTV映像を伝送できることを確認した。

 ――AVインタフェースに双方向高速通信機能を持たせた目的は。

Yum氏 DIVAケーブルで接続した機器同士で,家庭内ネットワークを容易に構築できるようにするためだ。従来は,リビング・ルームの機器で家庭内ネットワークを作るには,HDMIのほかにEthernetケーブルか無線LANで各機器をつなげる必要があった。DIVAなら,ケーブルをつなぐだけで,同時に家庭内ネットワークを構成できる。例えばテレビをハブとして,テレビとDIVAケーブルで接続したSTB,レコーダー,ゲーム機,パソコンなどでネットワークを構成し,双方向に通信して機器同士を操作したり,AVデータを送受信したりできる。インターネットの接続も容易になるし,DIVAネットワークの上にDLNAを載せることもできる。

――既にHDMIは,事実上の業界標準と認知されている。どのような戦略でHDMIで対抗するのか。

Yum氏 我々の目的は,特定の標準仕様に直接対抗することではなく,新しい家庭用AVネットワーク標準を作ることだ。我々は中国の主要家電メーカーと協力関係にある。中国のデジタル機器は,HDTV映像の伝送にアナログ・インタフェースを使っており,まだHDMIは普及段階にない。加えて,中国はデジタルAVインタフェースに海外の仕様を使うことをよしとせず,中国の独自規格を立ち上げようとしている。我々はDIVAを中国の独自規格として採用してもらうことを,普及の第一歩にしたいと考えている。2008年末までに仕様を固めた上で,2009年~2010年には送受信チップセットを出荷したい。このほか,DIVAの信号とHDMIの信号を相互変換できるブリッジLSIを開発する計画もある。

【追記】Synerchip社から申し入れがあり,最後の質問への答えの冒頭に一文を加えました。

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