試作車の性能に驚く
日経Automotive Technology 2006年夏号,pp.173-175から転載。所属,肩書,企業名などは当時のものです。

トヨタ自動車として初めてのFR乗用車専用ハイブリッドシステムを搭載したレクサス「GS450h」。FF車に比べてパッケージに余裕がないFR車にシステムを押し込むため、開発陣はパワー・コントロール・ユニットの容積を従来の1/3にするという難題に取り組んだ。

 トヨタ自動車が世界初の量産ハイブリッド車「プリウス」を1997年暮れに市場へ送り出してから、2006年は9年目に当たる。この間、既にプリウスは2代目へ世代交代を果たし、ミニバンの「エスティマ」と「アルファード」、続いてSUVの「ハリアー」「クルーガー」へと、トヨタのハイブリッド展開は広がりを見せている。

 そして2006年春。トヨタとしては初めてのFR(前部エンジン・後輪駆動)車専用ハイブリッドシステムを搭載した「レクサスGS450h」が発売された。初代プリウス以来、トヨタのハイブリッド車はいずれもFF(前部エンジン・前輪駆動)車を基本としたもので、その派生システムとして、後輪駆動用モータを持つ電動式4WD(4輪駆動)システムが、エスティマハイブリッド以降展開されてきた。

 厳密にいえば、2001年に発売された「クラウン・マイルドハイブリッド」がFR車として初めてのハイブリッド車であったが、これはハイブリッド車というよりも、機能をアイドリングストップに限定し、補機バッテリの42V化の可能性を探る試験的なクルマだったといえる。トヨタの6気筒エンジンが、直列からV型へ移行するのに合わせて、クラウンのラインアップからマイルドハイブリッドは姿を消した。一時、世界的に採用機運の高まった補機バッテリの42V化も、今日では沈静化したように見える。

試作車の加速性能に驚く

 GS450hのハイブリッドシステム開発がスタートしたのは、クラウンのマイルドハイブリッド誕生の約半年後、2001年暮れから2002年初頭にかけてのことであった。当時の様子を、トヨタ自動車パワートレーン本部HVシステム開発部主査の松本真一氏は次のように語っている。

 「そのころは、まだレクサスもどのようなエンジン体系にするかなどが具体化しておらず、まずはFRのハイブリッド車はどのようにすればできるのか、という検討から始めました」

 初代プリウス以来、圧倒的低燃費による環境性能で世界を驚かせたハイブリッドという技術。それを、FR車に展開したとき、低燃費はもちろんだが、それ以外にどのような価値を持たせることができるのか。あらためて基本的な検証から始めることになった。

 ここで時計の針をやや進める。後日FRハイブリッドの試作車が出来上がり、それをテストコースで試乗した松本氏は、その動力性能に目を見張らされたと語る。