インドの製造力:中台韓に次ぐ新たな脅威に

 インドでの製造が本格的に始まった電子デバイスのうち,急速に立ち上がっているのが太陽電池である。2007年に複数の新規参入メーカーが量産を開始したり,既存のメーカーも増産へと具体的に動いている。

 インドの研究機関であるIndian Association for the Cultivation of Scienceによると,2007年に80MWだったインドにおける太陽電池モジュールの年間生産量が,2012年には350MW,2022年には3GWになるという1)。しかし実際には,この予測をはるかに上回る勢いで太陽電池の生産が拡大しそうである。

参考文献 1) Barua,A.,“Solar Photovoltaics in India: Status and Prospects,”17th International Photovoltaic Science and Engineering Conference,2007.

 「インドの太陽電池メーカーの中で,特に勢いがあるのがTata BP,Moser Baer,Relianceの3社。これらがインドNo.1を競うことになる」(インドの製造装置メーカーHind High Vacuum Co. Pvt. Ltd. Managing DirectorのPrasanth Sakhamuri氏)(図4)。このうちインドTata BP Solar India Ltd.は,1989年創業の老舗太陽電池メーカーである。現在50MWの年間生産能力を2010年までに300MWに拡大する計画を掲げている。これに対してインドMoser Baer Photo Voltaic Ltd.は,2007年春に生産を開始したばかりの新規参入メーカーである。同社は,現在40MWの年間生産能力を2010年までに500MWに拡張する強気の計画を掲げる。さらにインドRelianceグループは,インド最大の企業グループであり,インド西部のグジャラート州で製造に向けた準備を進めているという。このほかにも,米国帰りの技術者たちが立ち上げたSolar Semiconductorや,老舗メーカーの一つインドMaharishi Solar Technology Pvt. Ltd.など,さまざまな太陽電池メーカーが増産を計画している。

太陽電池分野では新旧メーカーが激突

 今まさに,インドでは新旧入り混じっての太陽電池生産競争が始まった。そのほかの電子デバイスも,LSIは欧米メーカーの技術支援を受けた複数の企業が計画段階に入り,PDPは少量試作を始め,液晶パネルは現地メーカーがインドでの製造を検討中という状況である。クリーン・ルームや真空プロセスを使う太陽電池産業が立ち上がれば,FPDやLSIといった電子デバイスの製造に向けた基礎が整うことになる。薄膜Si型太陽電池の製造技術は液晶パネルの製造技術と類似しており,Si基板を使う点では結晶Si型太陽電池とLSIは共通である。

 以下では,インドの太陽電池メーカーの事例を見ながら,インドの電子デバイスの製造力を検証する。

世界初の製造ラインに熱い視線

 インドの太陽電池メーカーの中で,世界の太陽電池関係者が今最も注目しているのが,Moser Baer Photo Voltaicである。現在同社は,ニューデリー郊外のノイダで,寸法が2.2m×2.6mと巨大なガラス基板を使う薄膜Si型太陽電池を新たに製造しようと準備を進めている(図5)。製造装置は,米Applied Materials, Inc.(AMAT)が「SunFab」と名付けて売り込み中の製造ラインを使う。製造に必要なすべての装置を一括して導入する,いわゆるターン・キー・ソリューションである。Moser Baerは,SunFabを導入する最初の例になる。そのため,立ち上げの成否に注目が集まっているのである。

年産500MWに向けて準備を進めるMoser Baer

 SunFabのようなターン・キー・ソリューションが成功すれば,資金力のある異業種企業が太陽電池事業へ参入しやすくなる。おまけに,2.2m×2.6mの大型基板は,太陽電池の製造コストを一気に下げる可能性を秘めている。Moser Baer Photo Voltaicの製造が成功すれば,太陽電池の勢力図を大きく塗り替えるキッカケになるだろう。

 果たしてインドの地で,世界初の製造ラインの立ち上げがうまくいくのか。太陽電池関係者の多くがいぶかる中で,現場では着々と装置の設置が進んでいる。AMATからは,約100人の技術者が送り込まれている。2008年1月末時点で,1/2~2/3の装置の据え付けがほぼ終了していた注)。装置の配置は,AMATが公表したSunFabの概念図の通りである注)。SunFabの成否のカギを握るプラズマCVD装置も設置が終了し,電源も入り,「数日中にガラス基板の搬送テストをする」(Moser Baer)とのことだった。薄膜Si型の製造ラインの立ち上げに合わせて,自家発電設備も新たに建設しており,後は製造装置の稼働を待つばかりの状況になっている。

注)薄膜Si型向けクリーン・ルームの面積は2万m2で,このうち通常の部屋がクラス10万で,プラズマCVDの部屋はクラス1万である。
注)下の写真は,AMATが公表したSunFabの概念図。

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