インドの製造力:中台韓に次ぐ新たな脅威に

 電子デバイス分野では,LSIの設計拠点としてすっかり定着したインド1)。そのインドがついに,電子デバイスの製造に向けて本格的に動き出した。これまでも細々と電子デバイスの製造を続けてきたが,ここへ来て新規参入や大規模増産の計画が相次いで発表されている。現時点で明らかになっている計画だけでも,LSIからPDP,液晶パネル,太陽電池まで幅広い。電子デバイス製造に欠かせない製造装置までも現地で調達できる(図1)。

電子デバイスの製造が本格化

 インドでの電子デバイスの製造が本格化してきたのは,電子デバイス製造に必要な「ヒト(人材)」,「モノ(技術)」,「カネ(資金)」がそろってきたからである。「今,チャンスは米国ではなく,インドにある」(米国から帰国してインドSolar Semiconductor Pvt. Ltd.を立ち上げた同社PresidentのHari Surapaneni氏)として,かつては米国などに流れていた優秀な人材が,インドに帰ってきたり,インドの大学を卒業してそのままインドに残ったりしている注)。電子デバイスの製造に必要な部材やインフラも整ってきた。さらに,電子デバイス以外で稼いだ豊富な資金を活用しようと,電子デバイスへの参入を目指すインド企業が増えている。そうした企業は,一大企業グループを築いた創業者の二代目がトップに就いている例が多く,投資判断のスピードが速いのが特徴である。「ヒト」,「モノ」,「カネ」に「スピード」が加わったインド・メーカーは,日本メーカーにとって大きな脅威となるだろう。

注)「工場労働者の賃金がインドでは年間3000~6000米ドルと安い点も魅力」(Solar SemiconductorのSurapaneni氏)と言う。

インフラの整備も進む

 インドで電子デバイスの製造が成り立つのか。日本人なら誰もが抱く疑問である。日本貿易振興機構(JETRO)がインドに進出する日本企業に対して実施した調査でも,投資環境面での問題点として81.3%が「インフラ(電力,運輸,通信など)の整備状況が不十分」とした2)。「インフラ,労務管理,税務手続きという3大課題の中で,インフラだけは企業の力では解決できない」(JETRO 海外調査部 アジア大洋州課の石川宗範氏)からである。

 インフラの中でも特に,電力は慢性的な不足が続いている。ピーク時の電力需要量と供給量は,10%以上の乖離(かいり)が続いてきた。電力供給量は順調に増えているものの,生活水準の向上とともに電力需要も同じように増えているのが現状である(図2)。

慢性的な電力不足を自家発電でカバー

 そのような状況で,果たしてインド企業はどのように電子デバイスを製造しているのか。その答えは,工場を見れば明らかである。どの工場でも,巨大な煙突が目に飛び込んでくる。電力が不足する事態に備えて,各企業が自家発電設備を備えているのである。インドでは電力料金が5米セント/kW時と先進国に比べて安価なために,自家発電設備を一時的に稼働させるコストは十分吸収できるという。

 電力以外のインフラも,徐々に整備が進んでいる(図3)。部材や完成品を運ぶのに欠かせない高速道路網は,インド各地で建設が進行中である。郊外の工場に続く高速道路沿いには,周囲と高い壁で隔離された高層マンション群が建ち始めた 。このほかに,人の移動に欠かせない空港設備も各地で拡張や新設工事が進んでいる。今後,インフラが整うにつれて,インドの電子デバイスの製造拠点としての地位がさらに高まることになる。

インフラの整備が着々と進む

参考文献 1)小島,「LSI世界攻略の必要条件,インドの設計力」,『NIKKEI MICRODEVICES』,pp.131-145,2006年12月号.
参考文献 2)「『インド・ビジネスの実態』~リスクとその克服から生まれるチャンス~」,日本貿易振興機構,2007年3月.

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