冬来りなば春遠からじ
日経Automotive Technology 2006年春号,pp.190-191から転載。所属,肩書き,企業名などは当時のものです。

 ただし、歩道へ乗り上げるなど大きな段差を越えるときは、ばね下が重いほどタイヤが大きくたわみ、入力も大きくなって、ハブベアリングなどの強度に問題が生じる懸念がある。

 「それでも、1輪の質量増が25kgほどの範囲であれば、これまでエンジン車で築き上げてきたサスペンション技術の延長線上で強度の問題は解決できます」(吉田氏)

 もちろん、強度的な面から考えれば、ばね下が軽いに越したことはないと、吉田氏は付け加える。ただし、インホイールモータによる質量増の影響は、その実用性を制約するほどのものではないというのだ。またその事実を、試乗という実体験で筆者も認識することになった。

 ランサーエボリューションMIEVに使われた減速ギアを持たないアウターロータ式インホイールモータは、東洋電機製造との共同開発による。東洋電機製造は、新幹線など鉄道用モータの製造を行ってきた企業で、インホイールモータを進化させるため、三菱自動車が共同開発を打診した。

 アウターロータ式の技術は東洋電機製造にあったものだとしても、それを滑らかな鉄路ではなく、不整地も走るクルマ用とするためには自動車メーカーの知見が必要になる。そして、MIEVが成功すれば、東洋電機製造にとっても自動車業界という新たなビジネスチャンスが広がることになる。ランサーエボリューションMIEVのアウターロータ式インホイールモータは、路面からの前後左右の入力や、水、砂の浸入への対策も既に済ませてある。

 インホイールモータの優位性はさらに続く。万が一の場合にも、安全性がより高いという事実だ。何らかの理由で片輪の駆動力が急に失われたような場合、モータを車体側に搭載してドライブシャフトで駆動する方式より、インホイールモータの方が直進性を大きく損なうことがないという。これは、車体に対する駆動反力の伝わり方が通常の駆動方式とインホイールモータでは異なるためで、キングピンオフセットをゼロにしておけば、進路が急に乱されずに済む。

 インホイールモータ開発では、2000年ごろから東京大学・生産技術研究所との共同開発も進めてきた。エンジンより100倍も応答の速いモータの制御や、ノイズの影響など、大学は学識が豊富であった。一方、大学では実車での検証がなかなか難しい点がある。両者の思惑はこうして一致した。

iベースのMIEVを開発

 ここまで開発の進んだMIEVについて、三菱自動車は2010年まにの市販化することを表明している。そのベースとなるのは、2006年1月に発売したリア・ミッドシップ・レイアウトのパッケージングを持つ新型軽自動車「i(アイ)」だ。