24時間で2142.3km
日経Automotive Technology 2006年春号,pp.185-188から転載。所属,肩書き,企業名などは当時のものです。

多くの自動車メーカーが開発を中断した電気自動車。そんな状況の中で、三菱自動車はあえて独自の電気自動車「MIEV」の開発に取り組む。電池が燃えるなどの危機に陥りながらも、電気自動車の普及に執念を燃やす。

 まずは2005年秋の東京モーターショーで公開された、三菱自動車の電気自動車「ランサーエボリューションMIEV(Mitsubishi In-wheel motor Electric Vehicle)」に乗り込む。走り出したのは岡崎にある三菱自動車のテストコース。S字カーブのあるハンドリング路と、バンクカーブを持つ高速外周路である。

S字カーブでは、前輪に駆動力を感じながらステアリングを切り込み、狙い通りの進路をきれいになぞって走る気持ちよさと、後輪にも駆動力がかかってクルマを前へ押し出すコーナリング速度の高さの両方を体感した。この間、微妙なアクセル操作に対し細かく駆動力を変化させながら、走りを制御する様子も体に感じることができた。これはモータ駆動独特の感触であり、この後技術開発の話の中で、再び取り上げることになるだろう。

 高速周回路では、170km/h以上の速度を体験した。バンクのついたカーブ出口では細心の運転が求められるが、筆者にとって久しぶりのバンク走行であったため慎重になり過ぎたきらいがある。もう少し攻め込めれば180km/hは超えたであろうと感じさせる動力性能だった。そのモータパワーは、テストコースを数周する間も衰える様子がなく、Liイオン2次電池の潜在能力の高さをも体感することになった。

 個人的なことになるが、筆者は日本EVクラブに属しており、電気自動車には人一倍関心を持っている。それだけに高性能EV(電気自動車)を久しぶりに運転し、触れることのできた喜びはひとしおだった。しかし自動車業界全体を見れば、2000年ごろを境に、EVからFCV(燃料電池車)へという流れが世界の潮流になり、EVの話題に触れる機会は激減している。そうした中で、EVの開発に注力する三菱自動車は少数派だ。今なぜEVなのか、という質問から今回のインタビューは始まった。

世界記録を達成

 答えてくれたのは、三菱自動車技術開発本部先行車両技術部シニアエキスパートの吉田裕明氏である。

「1990年代半ばに、携帯電話機用Liイオン2次電池が実用化されました。同じ時期に、家庭用ルームエアコンのモータに、永久磁石式同期モータが使われだしました。Liイオン2次電池はエネルギ密度が高いので、EVで課題だった1充電当たりの航続距離を延ばすことが可能になります。また永久磁石式同期モータが、小型・高性能化を可能にしました。そこで、市販車のFTOをベースに、両者を組み込んだEVの実験車を造ったのです」