地上テレビ放送の完全デジタル化後に利用可能になる周波数帯を用いた放送サービスに関する検討を行う「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」(通称:マルメ懇)が2008年5月20日に第13回会合を開催した。懇談会の事務局は,これまでの議論の内容を踏まえた報告書案を提示し,構成員が概ね了承した。数日後に報告書を一般公開し,パブリック・コメントの募集を行う。

 マルメ懇は,2007年6月の情報通信審議会諮問第2022号(「電波の有効利用のための技術的条件」のうち「VHF/UHF帯における電波の有効利用のための技術的条件」に対する一部答申)が,地上アナログ・テレビ放送の停波後に利用可能になる周波数帯の利用方法として,VHF帯の90M~108MHzの18MHz幅(以下,V-LOW)と207.5M~222MHzの14.5MHz幅(以下,V-HIGH)を移動体向けの放送に利用することが適当であると指摘したことを受けて始まったものである。2007年8月から,制度面や技術面の課題について議論を重ねてきた。

 今回の報告書案では,実現する放送のイメージ,周波数の割り当て方針,制度や技術方式のあり方,そして今後のスケジュールを示した。

 実現する放送として,国内のどこでも同様のサービスが受けられる「全国向けマルチメディア放送」(以下,全国向け放送),複数の都道府県をまとめたブロックごとにサービスを提供する「地方ブロック向けデジタルラジオ放送」(以下,地方ブロック向け放送),市町村などの小規模な地域に向けた「デジタル新型コミュニティ放送」(以下,新型コミュニティ放送)の3形態が適当であるとした。いずれも,デジタル方式を前提とし,有料放送を可能にすること,映像と音声の組み合わせやリアルタイム視聴とダウンロード型受信などの提供形態を柔軟に選べるようにすることなどを求めた。

 周波数帯は,全国向け放送にV-HIGHを割り当て,地方ブロック向け放送にV-LOWを割り当てるとした。新型コミュニティ放送には,当該の地方ブロック内で,V-LOWの利用されていない帯域を割り当てる。全国向け放送については,国が無線局の設置場所やチャンネルなどを定める必要はなく,無線局の設置は事業者の創意工夫にゆだねることが適当であるとした。そこで,携帯電話などの無線局の免許に関わる制度である「認定計画制度」を参考として,国が全国向け放送に求める条件などを定め,これに即した計画を提案した事業者を比較審査するといった仕組みの導入が考えられるとした。

 制度のあり方として,地上放送をする無線局の免許を取得するハード事業者と,放送番組を編集するソフト事業者の数をそれぞれ提案した。全国向け放送はソフト事業者が2~4程度,ハード事業者が1または2,地方ブロック向け放送はソフト事業者が地域ブロックごとに複数,ハード事業者が地域ブロックごとに1とすることが適当であるとした。

 技術方式のあり方としては,全国向け放送について国内規格を統一することは必須とせず,事業者の判断に任せることを重視した。検討対象となっているISDB-T系,MediaFLO,DVB-H,T-DMBは基本的に技術的な優劣はなく,実現できる放送に差はないとし,事業者の選択の幅を拡大するために複数の技術方式を国内規格にすることを検討すべきであるとした。ただし,複数の技術方式を国内規格と認めた場合でも,受信端末の普及という観点からは将来のどこかの時点で技術方式が統一されることが望ましいとしている。地方ブロック向け放送は,どのブロックに移動しても同じ端末で受信できるようにするために,1個の技術方式を国内規格にすることを提案した。これらの国内規格は今後,総務大臣の諮問機関である情報通信審議会で検討していく。

 この報告書案では,2011年7月に行う地上アナログ・テレビ放送停波後の本格サービス開始に向けて,2009年にかけて事業者参入のための条件整備を進め2010年半ばに事業者を選定するというスケジュールを示した(図1)。技術面については,国内規格とする技術方式の条件を決め,公募を早急に開始する。応募があった技術方式について検討した上で標準規格とするものを2009年に電波監理審議会に諮問し,電波産業会(ARIB)で標準規格や運用規定を定めていく。

図1 携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会が報告書案で示した本格サービス開始までのスケジュール
図1 携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会が報告書案で示した本格サービス開始までのスケジュール
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