「歩留まり」「共同開発」「信頼性」で文化の違いが浮き彫りに 目次-産業構造が変わる
日経エレクトロニクス2007年12月3日号,PP.109-113から転載しました。所属,肩書き,企業名などは当時のものです。

「歩留まり」の考え方に対する相違

 車載半導体は,自動車の高性能化を実現していく上で欠かせない。自動車メーカーの中には,半導体特有の歩留まりという考え方を受け入れ難い文化としてとらえる人が多い(図5)。自動車メーカーから見ると,半導体はこれまで携わってきた機構部品と比べて異質だと考えているようだ。

 元電機メーカー勤務,現在はある国内自動車メーカーで電装品を開発する技術者は言う。「良品率を100%に近づけるのがクルマのモノづくりだと教わっている。それに対して半導体はもともと歩留まりという考え方があり,不良品が出るのは当然と考える。不良品をいかに市場に出さないか,つまり最終的な検査工程で落とせるかが重要になる。ここが,クルマとは全く違う。このため,歩留まりの考えを自動車メーカーに理解してもらうのにかなり苦労している。今でも理解していない人が生産系には多い。『何でこんな良品率なんだ。初めから良品率100%をどうして目指さないのか』と言われるが,Si結晶中には必ず欠陥がある。それをゼロにはできない」。

 電装品メーカーがデジタル用途の車載半導体のプロセス微細化やウエハー・サイズの大型化を進めない点に関しては,こう言う。「半導体は良品率が100%に近づくとプロセスを進める。このため一時的に,良品率は60%程度に低下する。再度改善することで良品率を100%に近づける。これを繰り返すことによって半導体のプロセス開発は進んでいく。自動車ではそういう開発手法はなかなか通用しない。100%に近づいたら,『何でまた60%に落とすような技術開発をしなければならないのか』と言う人は多い。技術開発より品質第一という考え方である。古い技術は多くの人の知恵が入って枯れている。それを新しくする利点はあるが,弊害の方が大きい」(前述の技術者)。

産業発展形態の相違が大きく影響

 なぜ自動車メーカーは,歩留まりの概念が受け入れられないのだろうか。この理由の一つとして,それぞれの産業に根差す科学観や技術感の違いがある。

 日本で車載半導体を供給するのは大手電機メーカーが母体である半導体メーカーが多い。エレクトロニクス産業では分業化が進行しているため,自社ができない,あるいは得意ではない技術や部品などは他社から調達するのが一般的だ。車載半導体を開発する多くの半導体メーカーには,外部調達に抵抗感が少ない産業文化が根付いているといえる。

 一方,自動車メーカーはこれまで長期にわたって,エンジンや車体などの基幹部品の多くを自社,あるいは系列の電装品メーカーと開発してきた。系列を含めた垂直統合型こそが自動車メーカーの強みである。他社との差異化を図るために自社製品を貫いている。自動車メーカーの内部には,「興味を持っているところを他社に聞くと,逆に『自分たちが何をしようとしているかがバレてしまうのではないか』と考える人が多い。できるだけ他社と自社の間に壁を作ろうとする。技術者レベルでは会社を超えて理解し合えるが,会社として深く話し合えるようになるには,思想の変革が必要だと思う」(元電機メーカー勤務,現在はある国内自動車メーカーで情報関連分野を統括する技術者)。