日経エレクトロニクス2005年6月20日号,PP.67-68から転載。所属,肩書き,企業名などは当時のものです。

 2010年以降には,これまでなかなか進展しなかったテレマティクスも世界的規模で広がりそうだ。北米ではGeneral Motors社が2007年にすべての車種に同社の自動車向け情報提供サービス「OnStar」対応の車載端末を標準装備することを明らかにしたほか,欧州でも事故による緊急通報サービスが可能なシステムの搭載を2009年に義務化する検討が始まっている。

 日本では義務化される動きはないが,各自動車メーカーが快適性を高める必須アイテムとして「2008年以降に発売する新型車のほぼすべてに通信モジュールを標準搭載するようになる」(インターネットITS協議会 事務局長の時津直樹氏)という。この通信機能が,自動車の安全分野と快適分野を密接につないでいく。具体的には2007年以降,自動車をセンサとして利用する「プローブ・カー・システム」が本格的に立ち上がる注6)

注6) 経済産業省は,プローブ・カーから収集したデータから渋滞情報を作成するソフトウエアの開発を進め,2007年度にプローブ・カー・システムの実用化を図ることを明らかにしている。開発は,トヨタ自動車とデンソー,NTTデータ,NEC,日立製作所,富士通,松下電器産業など民間企業が構成する組合に委託する。予算は約15億円で,国が全額負担するという。

 プローブ・カー・システムは,車両の速度データをはじめ,ワイパーのスイッチやABS,エアバッグなどの各システムの作動状況をGPSの位置情報とともに通信モジュールを使ってセンターに送信し,その収集データを使ってさまざまな情報として再利用できる(図5)。例えば,既にサービスを開始しているが,ホンダはVICSが設置されていないような道路の平均車速を車両から送信して渋滞予測情報に利用している。このほかにも,ワイパー作動状況から降雨情報を,ABS作動状況から路面の凍結情報などを配信することが可能になる。このようなシステムを搭載したクルマがたった1台だけでは情報価値として使えない。だが,日本全国津々浦々にまである車両に搭載されていけば,今までにない情報インフラとして活用できる。