日経エレクトロニクス2005年6月20日号,PP.65-67から転載。所属,肩書き,企業名などは当時のものです。

 2005年4月,トヨタ自動車が東京・お台場に電子部門の開発センターを設置した。その理由について同社 常務役員の重松崇氏は「目まぐるしく変わっていく情報系技術をクルマにいち早く取り込みたい。それにはエレクトロニクス・メーカーの研究開発拠点が多い首都圏に拠点を置きたかった」と語る。同社では,画像認識技術や通信技術など,エレクトロニクス・メーカーが得意とする技術を活用したいとしており,東京の開発センターに系列メーカーにこだわらないオープンな開発拠点を設けたという。

 理由はそれだけではない。現在,自動車メーカーは安全対策の分野で大きな課題を抱えている。国内の交通事故による死者数は年間1万人を下回り減少傾向にあるようにみえるが,事故件数や負傷者数は増加の一途をたどっている注4)。さらに,国内では運転者の高齢化による事故件数の増加が取りざたされている。2010年には60歳以上となる高齢の運転者数が約1400万人と,運転免許保有者の1/4を占めるようになる。

注4) 2003年の交通事故を見ると,30日以内の死亡者数は8877人と,1994年に比べて約30%減少した。だが,事故件数そのものは95万1371件,負傷者数は約118万1585人と,1994年に比べてそれぞれ30%以上増えている。

 こうした状況からトヨタ自動車は,事故件数などを大幅に減少させるには,クルマだけの安全装備を充実するだけでは限界があり,インフラと協調したシステムの構築が必須とみている。このためには,自動車メーカーが東京・霞が関の各省庁と連携する必要があるとして,開発センター内にその連携を推進していく部署も設立する予定だ。

低コスト化で量販車にも搭載

 現状でも自動車メーカーは,カメラ・システムやレーダを使って道路状況を判断して,事故を未然に防ぐシステムの搭載を高級車を中心に進めている(図3)。さらに,車両自体の安定性を保つために,電子制御スロットルやABS,サスペンション,ステアリングを自動的に統合制御するシステムなどの実用化も始めた。今後はこうしたセンサからの情報に合わせて車両を自動的に制御し,事故を回避するシステムの開発が加速する。