図1:集積化したカーボン・ナノチューブによる3次元形状の電子部品のレーザー顕微鏡画像と電子顕微鏡画像
図1:集積化したカーボン・ナノチューブによる3次元形状の電子部品のレーザー顕微鏡画像と電子顕微鏡画像
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図2:カーボン・ナノチューブ・ウエハーの作製工程の模式図
図2:カーボン・ナノチューブ・ウエハーの作製工程の模式図
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図3:垂直配向カーボン・ナノチューブ・フィルムの電子顕微鏡写真(左)と,カーボン・ナノチューブ・ウエハーの光学顕微鏡写真(右)。右の挿入図は2×2cm基板上のカーボン・ナノチューブ・ウエハー
図3:垂直配向カーボン・ナノチューブ・フィルムの電子顕微鏡写真(左)と,カーボン・ナノチューブ・ウエハーの光学顕微鏡写真(右)。右の挿入図は2×2cm基板上のカーボン・ナノチューブ・ウエハー
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図4:さまざまなカーボン・ナノチューブ構造体の電子顕微鏡写真。左上はSiピラー上のカーボン・ナノチューブ・ビームおよびカーボン・ナノチューブ・シート。右上はカーボン・ナノチューブ・カンチレバー,左下はカーボン・ナノチューブ3次元カンチレバー。右下はカーボン・ナノチューブ3次元配線
図4:さまざまなカーボン・ナノチューブ構造体の電子顕微鏡写真。左上はSiピラー上のカーボン・ナノチューブ・ビームおよびカーボン・ナノチューブ・シート。右上はカーボン・ナノチューブ・カンチレバー,左下はカーボン・ナノチューブ3次元カンチレバー。右下はカーボン・ナノチューブ3次元配線
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図5:カーボンナノチューブ・リレーの模式図(左上)と電気特性(左下),電子顕微鏡写真(右上,右下)
図5:カーボンナノチューブ・リレーの模式図(左上)と電気特性(左下),電子顕微鏡写真(右上,右下)
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 産業技術総合研究所(産総研)は,単層カーボン・ナノチューブを用いた集積3次元カーボン・ナノチューブ部品の作製に成功した(発表資料)。カーボン・ナノチューブを高密度に配向させた「カーボン・ナノチューブ・ウエハー」を開発したことで,リソグラフィによる微細加工技術の利用を可能にした。これにより,任意の場所に任意の形状の電子部品構造を作製できる。例えば,カーボン・ナノチューブによる3次元形状の電子部品を,基板上に1000個以上集積した(図1)。加えて,この電子部品の電気駆動に成功した。

 カーボン・ナノチューブ・ウエハーは,以下の手順で作製する(図2)。(1)Si基板上に,触媒を線状にパターニングする。(2)産総研が2004年度に開発した水分添加CVD法(スーパーグロース法)を利用して,Si基板上に垂直配向のカーボン・ナノチューブ・フィルムを作製する。(3)基板を液体に浸し引き上げることにより,カーボン・ナノチューブ・フィルムをSi基板上に倒伏させる。(4)倒伏したカーボン・ナノチューブ・フィルムが,液体の乾燥と共に高密度化しながら基板に密着し,カーボン・ナノチューブ・ウエハーとなる。

 (2)で作製した倒伏前のカーボン・ナノチューブ・フィルムは,平均直径2.8nmのカーボン・ナノチューブが垂直配向し密度0.03g/cc。(4)で作製したカーボン・ナノチューブ・ウエハーは,液体乾燥時に高密度化されることで,密度0.5g/ccの板状になる。このカーボン・ナノチューブ・ウエハーは,軽量で強靭な機械特性を有する一方,非常に柔軟で,90度以上曲げても断線しないという(図3)。電気特性は,カーボン・ナノチューブの配向と平行方向には抵抗率0.008Ω・cm,垂直方向では0.20Ω・cmと異方性を示した。

 カーボン・ナノチューブ・ウエハーは,フォトマスク用のレジストを塗布しても壊れることなく,リソグラフィ技術によって任意の形状に加工できる。また,Si基板上にあらかじめ用意した溝などの上に,カンチレバー状などのカーボン・ナノチューブ構造体を作製することも可能。カーボン・ナノチューブ・ウエハー自体も,3次元的な形状を保持できる。実際に産総研は,集積したカーボン・ナノチューブの3次元カンチレバーや,3次元配線を作製した(図4)。

 カーボン・ナノチューブ構造体の導電性を利用し,電気駆動が可能である。例えば,すべての電極がカーボン・ナノチューブから成るカーボン・ナノチューブ・リレーを作製し駆動させた。ゲート電極に電圧を印加することで,カーボン・ナノチューブ・カンチレバーの機械的スイッチングに成功した(図5)。

 産総研は今後,カーボン・ナノチューブ・ウエハーの物性評価を行い,その特性を活かすカーボン・ナノチューブ部品の開発を進める。企業や大学との連携を重視し,カーボン・ナノチューブ・フィルムを提供する予定である。

 今回の研究成果は,2008年5月4日に,英国科学誌「Nature Nanotechnology」のオンライン版に掲載された。

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