日本電信電話(NTT)が開発した,InGaAsPフォトニック結晶素子の構造
日本電信電話(NTT)が開発した,InGaAsPフォトニック結晶素子の構造
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 日本電信電話(NTT)は,フォトニック結晶を用いた光ビット・メモリで,最長150nsのメモリ持続時間を達成したと発表した(発表資料)。フォトニック結晶の材料としてInGaAsPを用いたことにより,同社がSi材料で達成していた2.5nsの60倍の長さを実現した。光閉じ込めの強さの指標となるQ値は最大13万。メモリ保持に必要なバイアス光のパワーは最低値40μWと,従来の半導体レーザを用いた光メモリに比べて数十分の一に低減した。

 フォトニック結晶とは,半導体などの材料に,光の波長程度の周期性を持つ微細な構造を加工することで,光閉じ込めを可能にしたもの。今回の開発品では,厚さ200nmの半導体結晶に,直径200nmの空気穴を周期420nmで三角格子状に配置した。その中の1列に穴のない直線状の領域を設けて,導波路とする。その両脇に,穴の位置を数nmずらして幅を広げた領域を設けると,その領域が共振器として働く。共振器の光が閉じ込められる領域の体積は0.1μm3程度と小さい。メモリのオン/オフ状態の書き換えには,光により物質の屈折率が変化する「光非線形性」によって引き起こされる光双安定現象を利用する。

 NTTは従来,Si材料によるフォトニック結晶共振器で光双安定動作を確認していたが,持続時間が2.5nsと極めて短く,光メモリとしては使えなかったという。InGaAsP材料はSi材料に比べ光非線形性が大きいが,Si材料に比べ加工が難しく,従来は高効率で光を閉じ込められるフォトニック結晶を作るのが難しかったとする。今回はInGaAsP材料を用いながら,高精度な加工技術により,高性能な共振器を実現できた。

 今回開発した技術を,スイッチやメモリなどの光情報処理チップに応用するため,今後,共振器の構造や材料パラメータを最適化し,メモリ持続時間をさらに長くすることが望まれるとしている。さらに将来に向けて,メモリの集積化やビット列のアドレッシングなどの技術開発が必要という。

 今回の研究は,情報通信研究機構(NICT)の委託を受けて行った。NTTは今回の成果を,2008年5月4~9日に米国サンノゼで開催される「Conference on Lasers and Electro-Optics(CLEO)2008」で発表する予定。

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