バラスト水処理システムを搭載して航行する「YUYO」。海上運送事業の雄洋海運が所有。
バラスト水処理システムを搭載して航行する「YUYO」。海上運送事業の雄洋海運が所有。
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後部デッキに搭載したバラスト水処理システム
後部デッキに搭載したバラスト水処理システム
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 日立プラントテクノロジーと三菱重工業は,両社で共同開発したバラスト水処理システムが,国際海事機関(International Maritime Organization:IMO)の「活性物質を使用するバラスト水管理システムの承認手続ガイドライン(G9)」に関する基本承認を取得したと発表した(発表資料)。今後は2009年7月をメドにIMOの最終承認,続いて国土交通省の型式認定の取得を目指す。承認され次第,発売できるよう準備を進めていくという。これに向けて両社は2008年4月~2009年3月の1年間,船上試験を実施する。

 バラスト水とは,船が空荷のときに船体のバランスをとる目的で船内に取り込む水を言う。荷揚げ港で取水し,荷積み港で排水するため,外来生物が既存生物を駆逐したり疫病が蔓延したりといった環境への悪影響が問題視されている。IMOは2004年2月,排出時のバラスト水における細菌や水生生物などの含有比率を一定基準値以下にしなくてはならないとする条約を採択。これが発効すれば,最終的には全船舶に,排出基準を満たすための浄水装置の搭載が義務付けられることになる。2008年3月時点で批准しているのは13カ国で,発効条件の30カ国に満たないが,米国や英国,フランス,オーストラリアなどで批准に向けた動きが始まっており,今後一気に批准が進む可能性もある。

 日立プラントテクノロジーらが開発したのは,この条約発効で市場が立ち上がるはずのバラスト水の浄化装置である(Tech-On!関連記事)。装置の設計・開発や製作を日立プラントテクノロジーが手掛け,実船への搭載を三菱重工が担当している。今回の実験では,LPG船「YUYO」を三菱重工が長崎造船所で建造,バラスト水処理装置を同船に搭載した。

 日立プラントテクノロジーのバラスト水処理装置は,他社が開発を進める殺菌方式とは異なる手法を採っている。凝集剤と酸化鉄を使ってバラスト水中の細菌やプランクトン,泥などを小さな塊(フロック)にし,それを磁石で集めて取り除くというもの。日立プラントテクノロジーによれば,現在IMOの基本承認を得ている10社で,この磁気分離方式を採っているのは同社のみという。他社が採用する殺菌方式に比べ,殺菌に使う薬品による2次被害の恐れがないこと,泥なども合わせて取り除くためバラスト水タンクが腐食しにくいことなどを強みに挙げる。現在は除去後のフロックを船の廃熱を使って乾かし,磁性材として再利用できるようにするシステムを開発中といい,実現すればランニング・コストの低減が図れる。

 日本勢では,三井造船と日本海難防止協会を中心としたグループが一足先に基本承認を取得している。三井造船らの方式は,取水パイプの物理的な構造やオゾン(O3)の投入により殺菌するもの。世界に目を転じればスウェーデンAlfa Laval ABなどは既に受注を始めた(Tech-On!関連記事)。こちらは二酸化チタン(TiO2)に紫外線を照射してヒドロキシルラジカル(・OH)を発生させ,このラジカルで微生物などの細胞膜から水素(H)を引き抜いて破壊するというものだ。

 日立プラントテクノロジーは「どの方式にも一長一短はあるが,処理水の透明度には自信がある。当社は2012年度に100億円の受注を目標に据える。装置として販売するほかに技術供与も進め,世界シェア50%を狙う」と気炎を上げた。三菱重工は「船の大きさによって,好まれる技術は変わってくるだろう。装置を積むために配管設計を変更しなければならないようでは採用されない。逆に,今回の実験のように大きな変更をせずに搭載できる船では日立プラントテクノロジーの技術は支持されるはず」と評価している。

《訂正》
記事掲載当初,最終段落で「三井造船は『船の大きさによって(後略)」としていましたが,正しくは「三菱重工は」です。お詫びして訂正いたします。記事本文は既に訂正済みです。

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