左から間塚氏,野副氏,黒川氏。
左から間塚氏,野副氏,黒川氏。
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 富士通は,会長と社長が同時に交代する役員人事を2008年3月27日に発表した。代表取締役会長には間塚道義氏(現代表取締役副社長),代表取締役社長には野副州旦氏(現経営執行役上席常務)が就任する。2008年6月下旬の定時株主総会と同会終了後の取締役会を経て正式に決定される予定。

 この人事で現代表取締役会長の秋草直之氏は取締役相談役に,現代表取締役社長の黒川博昭氏は取締役ではない相談役となる。これに先立ち,2008年4月1日付で野副氏は経営執行役副社長に昇格する。

 黒川氏は,社長を退く理由に「(同氏自身の)ワンマン・コントロールによる弊害」を挙げ,グローバル企業を目指す上で「今が(社長交代の)適切な時期」と説明した。新社長に野副氏を選んだ理由は,〔1〕バランス感覚の優れたリーダーである〔2〕変化に対応できる柔軟性を持っている〔3〕(黒川氏にない)海外赴任経験がある〔4〕システム・インテグレーション(SI)事業を立て直した実績がある〔5〕幅広い人脈を持っている---ことなどである。

 また黒川氏は,自身が取締役でなくなる理由を「新会長と新社長に自由に経営させるため」と説明。当初は秋草氏も取締役から退く案を検討したが,現会長と現社長が同時に取締役でなくなると,外部との関係に支障を来す恐れがあるため,外部対応をどちらかといえば多く担当していた秋草氏が取締役に残ることにしたという。

 以下に,記者会見時の主な質疑応答を掲載する。

――今回の人事はいつ決めたのか?
黒川氏:秋草会長とは(2007年)12月ころから人事の話を始めた。二人とも,ワンマン・コントロールによる弊害を認識していた。野副新社長に打診したのは(2008年)2月ごろ。

――なぜ経営の一線から退くのか?
黒川氏:副社長たちとは連帯しながら仕事を進めてこれたと思うが,常務会のレベルでは次第に発言が減ってきていた。そうなってしまった。それならば,思い切って自分が外れた方がよいと判断した。私が取締役からも外れるのは,新会長と新社長の二人が自由に経営できる環境を整えるため。それが私と秋草会長の役割だと思っている。

――ワンマン・コントロールによる弊害について,具体的に教えてほしい。
黒川氏:どのようなプロジェクトでも,リーダーには権限を集中させるものだ。ただし,富士通の全業務を見わたすと,風土も顧客も違うので,業務によっては権限を委譲したつもりだった。常務会には「うるさい」人材を選んだはずだったが,私に対しては徐々に意見を言わなくなってしまった。そうすると「会社の成長の限界」すなわち「私の限界」になってしまう。これは危険なことで,非常に悩んだ。ほかにも例えば,現場の情報を集めるつもりで現場を歩いたり,担当者からメールを受けたりしたが,その際には担当者から「自分から社長に伝えたことが周囲に知られると,自分の仕事がやりにくくなる」などと言われたりもした。

――(野副氏に対して)現社長の状況(ワンマン・コントロールによる弊害)を見て,(野副氏は)どうしていこうと考えているのか?
野副氏:黒川社長は「ワンマン」と言っているが,そうではなく,我々が黒川社長の想いに負けたのではないかと思っている。

――富士通の経営課題と解決策は?
野副氏:最大の課題はグローバル化。収益基盤を全世界に拡大しようにも,今のリソースでは限界がある。内外のパートナー企業と連携しつつ,海外で通用することを目指す。また,単独の営業利益の改善も重要。

――エレクトロニクス業界で富士通の目指すビジョンとは何か?
野副氏:顧客のイノベーションを実現するためのイノベーションを起こせること。(サーバなどの)ハードウエアからアプリケーション,その運用までをワンストップで提供する企業として常に第1位でありたい。

――(黒川氏に対して)やり残したと思うことはあるか?
黒川氏:企業にとって重要なのはゴーイング・コンサーン(存続可能性)。経営はゴールのない駅伝競走のようなものだと思う。つまり,タイミングを見計らって次の人にたすきをわたす。(自分が打ち出してきた経営方針は)新しいリーダーの下で続けばいいし,新しい課題も発掘されるだろう。

――今回の人事は,先日(2008年3月10日)東京証券取引所で発生した株式売買システムのトラブルと関係があるのか?(東証の株式売買システムは,富士通製のメインフレームで動作している。)
黒川氏:(トラブルの)関係者には申し訳ないことだったが,今回の人事とトラブルが全く関係ないということだけは断言できる。

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