ナノマテリアルの安全性などを審議する検討会の第1回合同会合の様子。2つの検討会の第1回を合同開催
ナノマテリアルの安全性などを審議する検討会の第1回合同会合の様子。2つの検討会の第1回を合同開催
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 厚生労働省は2008年3月3日,カーボンナノチューブやフラーレンなどのナノマテリアルの安全性などを審議する検討会の第1回合同会合を東京都千代田区の合同庁舎で開催した(図)。ナノマテリアルの人への健康影響の評価や安全性の評価について今後検討を進める。今回の合同会合は「ヒトに対する有害性が明らかでない化学物質に対する労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」と「ナノマテリアルの安全性に関する検討会」がそれぞれ第一回会合を合同で開催したもの。

 「労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」は厚労省の医薬食品局長が,「ナノマテリアルの安全性に関する検討会」は労働基準局長が,それぞれ設けた検討会であり,第1回から第3回までを合同開催し議論する計画だ。両検討会の委員長には中央労働災害防止協会・日本バイオアセッイ研究センターの福島昭治所長がともに就任した。委員は,労働安全衛生総合研究所や産業技術総合研究所,物質・材料研究機構などの公的研究機関,慶応義塾大学や杏林大学などの大学などの有識者22人が就任した。

 「労働者ばく露の予防的対策に関する検討会」は,人に対する有害性が必ずしも現時点で明確ではないナノマテリアルなどの化学物質の中で,動物実験結果などから人の健康への影響が懸念されるナノマテリアルなどを取り扱う労働者の作業に対して予防的な暴露防止対策を検討する。検討対象の化学物質による健康影響の評価や作業現場の労働者に与える影響などの問題点を議論し,必要な予防的安全対策を検討するのが目的である。一方,「ナノマテリアルの安全性に関する検討会」は,ナノテクノロジーの応用開発が進展する中で,こうしたナノマテリアルの人の健康への影響については未解明な部分があることから,安全性の評価手法や安全対策のあり方を検討する。

 この検討会開催の直接的な引き金は,厚労省の労働基準局長が各都道府県の労働局長宛てに平成20年(2008年)2月7日に出した通達「ナノマテリアル製造・取扱い作業現場における当面のばく露防止ののための予防的対応について」である。この通達は,製造設備を密閉構造とし,労働者がナノマテリアルの暴露を受けない作業管理や,防塵マスクなどの呼吸用保護具の使用などを求めている。ここで「労働者」とは,製造現場に加えて,修理・点検などの取り扱い現場や研究開発目的の製造などで従事する者を指す。

 また,東京都福祉保健局長が厚労省の医薬食品局長と労働基準局長宛てに2008年2月22日に出した「カーボンナノチューブ等に関する安全性対策について」の提案要求も直接的な引き金の一つとなったもようだ。

 今回の検討会での議論の対象となるナノマテリアルの定義は,1次元の長さが100nmより小さい薄膜や棒状,粒状などの形状で,表面積の増大と量子効果の発現などの特性を示すもの。具体的には,フラーレンやカーボンナノチューブ(単層,多層),酸化チタン,酸化亜鉛,量子ドットなどの20数種類のナノマテリアルが対象になるとして,その用途展開などを事務局が説明した。

 ただし,この「ナノマテリアルとは何か」については,各委員から意見が出され,今後さらに検討を加えることとなった。材料の中には凝集していて最初はミクロサイズであってもナノサイズに分離するものや,サイズの分布がミクロからナノまでと幅広いもの,結合形式も共有結合だけではなく非共有結合のものもあるなどの指摘が各委員からあり,当面は安全性重視で幅広く構える考え方が提案された。また,人の体内に入るのは,呼吸による肺に加えて,皮膚や消化器系なども想定されるなどと,その経路ごとにも安全性などを検討することとした。労働者に加えて,消費者に対しても何をどう伝えるかが重要との提案もあった。こうした提案を踏まえて,今後何を議論の対象とするか明確にするための資料集めとその体系化が要望された。

 また,厚労省のこれまでの取り組みや,内閣府などの他の省庁の取り組み,米国やOECD(経済協力開発機構)などの外国の機関の取り組みについて解説があり,ナノテクノロジーやナノマテリアルなどの安全性の評価法などの国際的な動向が紹介された。

 今後は,第2回の合同会合を2008年4月に開催する見通しで,「ナノマテリアルの開発状況など」を有識者から聞き,検討する予定。第3回の合同会合は5月に開催する見通しで,「ナノマテリアルの有害性情報について」と,安全性評価についてどんな研究が実施されているかを聞き,議論する計画だ。

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