図 Eu錯体を利用した太陽電池の光波長変換材料の実用化試験。サンビックの細江工場(静岡県浜松市)で耐久性などの実用試験を実施中(写真提供は産総研)
図 Eu錯体を利用した太陽電池の光波長変換材料の実用化試験。サンビックの細江工場(静岡県浜松市)で耐久性などの実用試験を実施中(写真提供は産総研)
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 産業技術総合研究所の界面ナノアーキテクトニクス研究センターは,結晶シリコン系太陽電池向けに金属錯体の一種であるユーロピウム(Eu)錯体を利用する光波長変換材料を開発した。このEu錯体を練り込んだ封止材料シートを実用化し,耐久性などの実証試験をスタートさせた。

 現在利用されている結晶シリコン製の太陽電池は,太陽光を波長750nmを中心とした波長域での発電効率が高いという性質を持っている。このため,太陽光に含まれている250~500nmの紫外波長域を利用しておらず,太陽光全体を有効活用できていないという問題ある。今回開発した波長変換材料によって,広い波長域で有効利用できる可能性がある。

 同センター(高組織化分子ナノ構造チーム:チーム長は金里雅敏氏)が,Eu錯体の有望株を発見したのは,金属原子の周囲に有機分子が配位している機能性金属錯体を研究開発している過程だという。このEu錯体が紫外線域を吸収し,高波長域に波長変換して蛍光発光する機能を見いだしたのである。この波長変換機能を結晶系太陽電池の高効率化に適用できると判断し,実用化の検討を始めることにした。すでに,7件の特許を出願したという。

 同センターは,開発したEu金属錯体を太陽電池向けに適用するには,太陽電池セルの封止材料に練り込んで使う方法が有効と考え,太陽電池の封止材料メーカーであるサンビック(東京都葛飾区)と共同研究を始めた。封止材料のエチレン・ビニル・アセテート(EVA)シートに混練できるEu錯体を分子設計し最適化した。また,Eu錯体の量産化については化学メーカーに依頼した。このEu錯体粉末をEVAビーズに混練し,シートに成形加工する。サンビックは,厚さ0.6mmで幅115cmのEVA封止材料シートを成形した。「EVAに混合する他の物質と反応しないなどの課題解決に苦労した」と,金里チーム長は説明する。

 開発したEVA封止シートを適用した太陽電池セルをつくり,サンビックの細江工場(静岡県浜松市)の工場屋根に試作品を設置した(図)。現在,耐久性評価などの実用試験を実施中である。評価途上だが,2カ月間平均で太陽電池の発電効率が1.75%向上したことを確認した。

 また同チームは,赤,緑,青色に蛍光発光する希土類錯体の開発にも成功し,光の3原色をそろえた結果,インクジェット向けインクの開発などにも乗り出している。

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【訂正】記事掲載当初,成形したEVA封止材料シートの幅を「115mm」しておりましたが,正しくは「115cm」でした。お詫びして訂正いたします。記事本文は既に訂正済みです。