複合電極構造の模式図。灰色部分が多孔質炭素,黄色部分が酸化マンガンナノシート。模式図では細孔断面が四角になっているが,実際の発泡させた炭素多孔質体では丸形になる(図提供は宮山氏)
複合電極構造の模式図。灰色部分が多孔質炭素,黄色部分が酸化マンガンナノシート。模式図では細孔断面が四角になっているが,実際の発泡させた炭素多孔質体では丸形になる(図提供は宮山氏)
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 東京大学先端科学技術研究センターの宮山勝教授の研究グループは,リチウムイオン2次電池の高速充電・放電性能を向上させる,酸化マンガンナノシートを利用した複合電極を開発した。リチウムイオン2次電池の正極に用いる多孔質炭素の細孔内部に酸化マンガンナノシートを貼り付けることで,リチウムイオンの拡散距離を短くし,充電・放電を高速化させる(図)。現在,同複合電極を正極に採用した薄型リチウムイオン2次電池を試作し,性能を評価中だ。

 ナノシートの作成には,層間にイオンなどを取り込む貯蔵材料として研究開発されてきた無機層状材料を使う。無機層状材料の層間に大きな分子のイオンなどを挿入すると,層間が広げられて構成材料の各層がナノシートとして剥離(はくり)する現象を利用する。同研究グループは,MnO2が八面体構造をとる酸化マンガン(MnO6)の層状材料を塩酸溶液に加えて“プロトン置換体”を作成し,さらにアルカリ水溶液で処理し,2~3層程度の酸化マンガン(MnO2)ナノシートのコロイド分散液をつくった。同ナノシートは結晶構造を保っているという。厚さが数nm程度で,2~3層重なったものである。150℃以下の低温処理で作成できる。

 正極の構造材料となる多孔質炭素の製法は以下の通り。まず,コークスを酸処理した後にアルカリ処理して“アクアコークス”をつくり,約400℃の熱処理によって発泡体とした後に,2600℃の高温で黒鉛処理して均一な細長い穴が多数開いた炭素多孔質体とする。次に,この細孔に酸化マンガンナノシートが分散したコロイド溶液を流し込んで乾燥させると,細孔内面に酸化マンガンナノシートが貼り付いた複合電極ができる,という仕組みだ。一方,酸化マンガンナノシートを細孔内に均一に貼り付ける手法としては,プラスの電荷を持つポリカチオンをまず細孔表面に付着させ,次にマイナスの電荷を持つ酸化マンガンナノシートを静電力で均一に貼り付ける手法もも開発している。

 この酸化マンガンナノシートを利用した複合電極構造を正極に用い,電解質・セパレーター層を正極層と負極層でサンドイッチ構造で挟んだ,厚さ470μmの薄型リチウムイオン2次電池を試作した。正極層と負極層の厚さは100μmである。宮山教授は「活物質の酸化マンガンナノシートによって,高速充電・放電による高出力化と高エネルギー密度化による大容量化にめどをつけた」という。今回は,研究室レベルでの基本性能の向上を確認したものだが,今後量産技術の確立を目指す。

 宮山教授の研究グループは,チタン酸ナノシートなどのナノシートの作成法も開発し,多様なナノシートの開発も進めている。例えば,酸化マンガンナノシートとチタン酸ナノシートを複合して利用するといった検討も行っている。またカーボン繊維「VGFC」の表面にナノシートを“のり巻き”状に貼り付けた複合構造も作成し,用途開発を始めた。

 なお,同ナノシートは,NECトーキンと新日本石油と共同で開発しているもの。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ナノテク・先端部材実用化研究開発」事業の平成18年度(2006年度)に採択され,研究開発費の助成支援を受けている。