富士通などが開発した超電導BPFおよびLNA群。ただし,左上は受信専用。右上はLNA単体。
富士通などが開発した超電導BPFおよびLNA群。ただし,左上は受信専用。右上はLNA単体。
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山形大学が開発したチューナブル超電導BPFの特性。特性を変更せずに,周波数帯を可変にした。
山形大学が開発したチューナブル超電導BPFの特性。特性を変更せずに,周波数帯を可変にした。
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 富士通,富士通ワイヤレスシステムズ,富士電機システムズ,山形大学,および北海道大学などはそれぞれ,超電導技術を利用した帯域通過フィルタ(超電導BPF)各種を開発し,2008年2月18日に横須賀リサーチパーク(YRP)で開かれた「移動通信における電波資源拡大のための研究開発」のシンポジウムと実証実験の場で公開した(関連記事)。

 超電導BPFは,既に米国を中心に世界約1万基の携帯電話用基地局での受信回路で利用されている。超電導を用いることで雑音が減ったり,BPFのフィルタ特性が非常に急峻になってガードバンド幅を大幅に狭くできたりする。サービス事業者やユーザーにとっては通信途中のセッション切れが減り,上り方向(ユーザーから基地局への通信)の通信距離が伸びるメリットがある。最近では中国の携帯電話関連企業各社が北京五輪前後に開始予定の第3世代携帯電話サービスに合わせて導入に積極的な姿勢を見せている。

 富士通らの開発は,こうした超電導BPFを送信側にも使えるようにするのが目的。富士通によれば,超電導BPFを送受信の両方に用いた基地局は,一般の基地局に比べて送信電力が1/2,受信感度が2倍,周波数チャネル間のガードバンドが1/10で済むようになるという。「超電導BPFの効果はむしろ送信時にこそ発揮される。仮に世界の携帯電話の基地局がすべて超電導BPFを利用すれば,年間700万t分のCO2,原発3基分の電力が節約できる」(富士通)と主張する。

アンプも一緒に冷やして使う

 各社の開発品は少しずつ異なる。富士通と富士通ワイヤレスシステムズは,LNA(低雑音アンプ)を含めた送受信両用の超電導BPFを開発した。特徴は10Wまでの耐電力性を持つ点。これまで超電導BPFが送信側で実用化されていなかったのは,電力の大きさがネックだったため。一般に高周波のBPFはマイクロ・ストリップラインからなる共振器を複数個並べたものから成る。これまでは超電導の効果を高めるために共振器の数を増やすと,必要な電力も大きくなってしまう課題があった。富士通らは,電磁結合を用いた技術によって,少ない共振器で多数の共振器を利用した場合と同様な効果を実現した。「開発したのは最大16段の共振器と等価」(富士通)という。

 BPFと組み合わせて,冷却して利用するLNAはインジウムとリン(InP)からなるHEMT(high electron mobility transistor)で,NF(noise figure)は0.02~0.05dBである。これは0.1~0.2dBのGaAs型HEMT,超電導を利用しない一般の携帯電話向けLNAの5dB前後と比べてはるかに小さい。

 一方,山形大学と富士通は,BPFの帯域を変更できる送信用のチューナブル超電導BPFを開発した。金属配線と誘電率が45という高誘電体からなる共振器で,金属配線と誘電体の距離を伸縮させることで共振器の有効誘電率を変化させ,共振周波数を変更する。周波数は4.5G~5GHzの間で変更可能。ただし耐電力性はまだ1Wである。「送信時は瞬間的には100Wぐらいになるため,もっと耐電力性が必要」(山形大学 大学院 理工学研究科 教授の大嶋重利氏)。現在,超電導材料にはイットリウム系のものを利用している。同氏らは,新しい超電導材料を開発するよりもフィルタの構造を工夫することで耐電力性を高めようとしているという。